| 「いい加減にしろ、ラスティ!」 イアンは眦をつり上げて傍らの恋人を怒鳴りつけた。ただでさえ厳しい面差しが、さらに険しい印象になる。 けれど、ラスティはまるで気にしていない。 「どうしたんだ?突然」 言いながらも、ラスティの口は忙しくもぐもぐと動き続けている。 四六時中何かを食べているのはラスティの悪い癖だが、彼と親しく付き合う者は誰でも、そんなことにはすっかり慣れている。普段ならイアンもこんなにひどく怒ったりはしない。しかし。 「ベッドの中で物を食うなと、何度言ったらわかるんだ!」 無駄に大きなベッドが部屋の大半を占めている郊外の安ホテルで、他にすることもないし、わざわざ出かけるのも億劫なので、二人は早々にベッドに入った。 お互い気が済むまで体を重ねて、それが終わってもまだ眠る気分にはなれなかったので、イアンは退屈しのぎにノートPCでニュースのチェックをしていた。 隣でガサガサとビニール袋を開ける気配がしたので、嫌な予感がして振り返ったら、案の定、ラスティは途中のマーケットで買った袋を開けていた。 しかも、よりによって、ラスティの口に入っていたのはドーナツだ。ラスティが喋ったり口を動かしたりするたびに表面の粉砂糖がパラパラとシーツの上に落ちる。 …ベッドルームでドーナツ! その非常識さにイアンの怒りが爆発した。 しかし、イアンがどれだけ罵っても、ラスティにはあまり効き目はないようで、罪の意識もなくきょとんとしている。 実は、以前にも同じようなやりとりがあって、腹を立てたイアンはラスティをベッドから蹴り出して、その癖を直さない限りは二度とベッドに入れないと言った。だが、反省していたのは最初のうちだけで、寝室に入れてもらえないラスティは他の場所で襲ってくるようになった。ソファや、キッチンや、バスルームで。 結局、その懲罰でより迷惑したのはイアンの方だった。 飄々としたラスティには、厳しい罰はあまり効き目がない。鞭が駄目だとしたら、あとは飴だ。 顎に手を当ててちょっと考えた後、イアンはラスティの口から半分食べかけのドーナツを取り上げてサイドボードの上に置くと、粉砂糖で真っ白な肉厚の唇にくちづけた。 「口寂しいならこれで我慢しろ、ラス」 その言葉通り、ラスティは食べかけのドーナツのことなど綺麗に忘れて、恋人とのキスに夢中になった。 「よお、久しぶりだな、ダニー」 「おう、ラス……って、うわ!」 後日。 久しぶりに悪友と再会したダニー・オーシャンは、彼の顔を見るなり間の抜けた声を上げた。 それもそのはず。半年ぶりに会ったラスティは、以前の彼とは同一人物と思えないほど、見る影もなく痩せこけていた。 …終わり。 |
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規矩屋の秋好さまからのいただきものでした。 ありがとうございました〜! ベッドに粉砂糖がぱらぱら落ちるさまを想像すると、ぞっとしますね。 でも、あんまり痩せすぎても、ごつごつして痛いかもしれないから、 食事時にはせっせとごはんを食べさせてあげて欲しいものです(笑)。 秋好さまのサイトはこちら。 2006.02.26(賜り日) 2006.07.30(移動日) |