「……っ……駄目だ、デイヴ」
シーツの中でショーンは身をよじって、デイヴィッドの手を避けようとした。
「──何故? ショーン」
素直に手を引きながらも、デイヴィッドはショーンの顔を覗き込むようにして訊ねた。
ほんのりと赤くなる顔を、可愛いなあ、と思いながら、「弟」は「兄」の言葉を待った。



daylight



ショーンがここのエアポートに降り立ったのは、日付も変わろうかという遅い時間だった。
折からの天候不順で、出発も乗り継ぎもスケジュールが遅れに遅れ、結局飛行機が到着したのは予定より5時間も後のことだった。普通の人間でもヘトヘトになるのに、飛行機嫌いのショーンではなおさらだ。
到着ロビーで出迎えたデイヴィッドは(彼自身も長いことロビーで待たされてくたびれてはいたのだけれど)、ショーンの青い顔を見て、とても申し訳ない気持ちになった。
やっぱり、イギリスまで迎えに行けばよかった。たとえショーンが「そんな無駄なことをして何の意味があるんだい?」と大笑いしたとしても、こんな風にひとりぼっちで青い顔をさせておくくらいなら、地球を余分に半周するくらい、どうってことなかったのに。
本当はそのまま目的地のロッジまで行ってのんびりする予定だったのだけれど、(精神的に)疲労困憊しているショーンを見かねて、デイヴィッドが計画を変更することにした。
とりあえず、今日はこのままエアポートに隣接しているホテルで休んで、明日改めて出発すればいい。
ショーンは申し訳なさそうな顔をしたが、その提案をとてもありがたいと思っていたし、デイヴィッドの方はショーンといられるなら場所などどうでも良かったので、早速そのままホテルのフロントへと足を運んだのだ。
まさか、ダブルというわけにはいかないから、しぶしぶながらもツインの部屋をとった。でも、片方は早々に荷物置きに降格させておいて、自分たちは二人してもう片方のベッドに無理矢理もぐりこんだ。子供じみた自分たちの行動を笑いあって、じゃれつくようにキスをする。けれど、それ以上の行為に進む前に、ショーンがまぶたを閉じてしまい、夢うつつに「ごめんよ」と何度も呟くのを幸せな気持ちで聞きながら、デイヴィッドも眠りについた。


+++++++++++++++++++++


翌朝、先に目を覚ましたのはやはりデイヴィッドだった。
昨夜開けたままだったカーテンから、明るい日差しが差し込んでいて、昨日の悪天候など知らん顔の鮮やかな青い空が見える。
今日はいい天気になるらしい。
「ん…………」
小さい声を漏らして、隣に眠るショーンが少しだけ首を傾けた。そうすることで、デイヴィッドの肩に頭をすりつけるようなポーズになる。
腕の中の温もりに、デイヴィッドは胸の奥が痛くなるほどの幸福感を感じた。
信じられない。
あんなに会いたくて会いたくて焦がれていた恋人が、本当にここにいるなんて。
大好きな翡翠色の瞳は今は閉じられて見えないけれども、その代わり、長いまつげが白い頬に影を落としているのが見える。
起こしてしまうかもしれないから、今すぐ口づけたい気持ちをぐっとこらえた。
ショーンが目を覚ませば、いくらでも何度でもキスする機会はあるのだし。
(……それだけで、すむかな?)
離れていた長い時間を差し引いても、白と、黄金と、緑でできた神の創造物は、奇跡のように可愛くてセクシーだから、自制心を保てる自信はあまり、ない。
もし、ショーンが嫌だと言わなければ──。
不埒な方向へ転がり始めた妄想を慌てて押しとどめて、まるで多感なティーンズの頃に戻ってしまったような自分に、声を立てずに笑う。
それをみっともない、とは思わなかった。それだけ彼の恋人が魅力的だということだ。
そうやって、聞くものもいないのに、デイヴィッドが自分に向かって惚気てみせたとき、ショーンのまぶたが震えた。ひく、と深く息を吸う音がする。
光が差すようにゆっくりと、ショーンが目を覚ました。
ピントの合わない瞳をゆらゆらと彷徨わせ、自分がいる場所を確認しようとしている。やがて、緑の光彩が鮮やかな色を帯びて、同時に彼は同衾していた相手の姿を見つけた。
「……おはよう、デイヴ」
「おはようございます、ショーン」
にこりとショーンが笑う。一日の初めにこの笑顔を見られれば、もうそれだけでその日のラッキーは保証されたような気になる。
「よく眠れましたか?」
「夢も見なかったよ」
飛行機の中じゃ、やっぱり眠りも浅くてね、とショーンは照れたように言った。
「辛かったでしょう。すいません」
「君が謝ることじゃないだろ? 飛行機が遅れたのも、私が飛行機嫌いなのも、君のせいじゃない」
「でも、俺のせいで少なくとも往復一回分、余分なフライトをさせてることになってますよ?」
どちらも地元では名の知れた俳優で、それぞれ仕事も忙しい二人は、なかなか逢瀬もままならない。お互いのスケジュールをにらみつけて、ほんのわずかのオフを重ねて、出会えるタイミングを計る。時間も場所も、その時々で違うから片方だけに負担がかかってしまうこともある。
それが自分の時なら、デイヴィッドは少しも気にしないのだけれど、相手に無理をさせていると思うとどうしても落ち着かない。
お互い様だろう、とショーンはいつも言ってはくれるけれども。
「やれやれ、君は本当に少しも変わらないね!」
もぞもぞと二回分の匍匐前進をして、ショーンはデイヴィッドの上にのしかかって来た。間近で見るグリーン・アイズはまたいっそう迫力がある。
「その謙虚さが君のいいところだけれど。それより、私に二回も余分なフライトをさせた自分に自信を持つことをおすすめするよ!」
笑いながらかすめた唇は、寝起きのせいか少しかさついていた。
「ショーン」
どこうとするショーンの腕を引き止めて、デイヴィッドの方から唇を重ねる。差し出した舌に、ショーンは素直に応えてくれたけれども、体勢を入れ替えて、シーツに押しつけられると、少し慌てた顔をした。
「デ……デイヴ、待って」
「何を?」
言いながらもキスを繰り返す。
ショーンの乾いた唇がしっとりと湿り気を帯びるまで。
そういえば、こんな風に明るいところで抱きあったことはなかった。
共寝の翌朝、だらだらと過ごすうちに、なしくずしにもう一度……ということはあったけれど、その時もいつもカーテンがきちんと閉まった薄闇の中だったから。
青い空を背景に、白い光の中で見るショーンは、洗いたてのタオルのように清潔そうな感じがした。
だからと言って、不埒な行動をやめようとは思わなかったけれど。
「ショーン」
寝乱れたローブの合わせ目からデイヴィッドが手を滑り込ませる。指先が胸の飾りに触れた途端、ショーンは上掛けをひっぱってその中に隠れようとした。
「ショーン?」
「……っ……駄目だ、デイヴ」
「──何故? ショーン」
素直に手を引いたデイヴの見ている前で、ショーンはくるくると上掛けに包まって、その身体をすぽりと隠してしまった。
……大きな芋虫みたいだ。
怒らせたかな、そんな風でもないけど、とデイヴは芋虫の周りをうろうろして、ショーンの様子をうかがった。
「ショーン、ショーン、俺、何かしましたか? それとも、朝からじゃ気分が乗らない?」
とりあえず、恋人の頭がある方へ寄っていって、訊ねてみる。
「そ……そうじゃない。そうじゃないけど……」
「じゃあどうして? 自信を持っていいって言ったのはあなたなのに」
「そ……れはそうだが……」
もそりとシーツがめくれて、ショーンの真っ赤になった困り顔が出てきた。ひどく、情けなさそうに眉を下げている。
(──芋虫じゃなくてみの虫かも)
「もちろん、あなたがどうしても嫌だと言うなら諦めますけど」
巨大な可愛いみの虫に向かって、デイヴが微笑みかける。そんな風に言えば、ショーンが困るのは承知の上で。
金髪の蓑虫はますます困った顔になり、早口で理由を告げるとまたリネン製のすみかへ潜り込んでしまった。
それはもう、声まで真っ赤にして。

「こんな明るいところじゃ、あの……きっと、君ががっかりする」

「…………!」
デイヴィッドはショーンがシーツにくるまっていて、本当に良かったと思った。
でなければ思わず笑ってしまった顔を見られて、ますます機嫌をそこねてしまうところだった。
「ショーン。……ショーン」
小鳥の巣を探す少年のように、そうっとシーツの端をひっぱってみる。蜂蜜色の頭が少しだけ見えた。
「俺ががっかりするなんて、どうして? こんなにあなたに夢中なのに」
シーツの中でショーンがもぞもぞと何かを言った。デイヴィッドは耳を押し付けるようにして、その声を拾った。
はっきりとはわからないけれど、「私は君より6歳も年上だし」とか「暗いところでするのとは違うし」とか、そういったことを言っているようだ。
知らなかった。ショーンがそんなことを思ってたなんて。
でも、年齢差なんて初めっからわかってたことだし。
二人の知ってる19歳差のカップルなんて、今でも見てるほうが恥ずかしいくらい仲がいいし(仲間内はともかく、メディアに対しての、あの気にしなさっぷりはどうだろう)。
大体デイヴィッドだって、人のことをどうこう言えるほど若くもない。
それに。
よいしょ、とシーツの端に指をかけ、今度は力任せにばさりとはいで、みの虫のすみかを奪い去った。
「うわ……っ」
ころりと転がって、中身が出てくる。せっかくの金髪がくしゃくしゃになっていた。
「デイヴ……」
「俺は」
デイヴィッドはにこりと笑った。
「ショーンが笑ったときに出来る、目じりのしわまで全部大好きです」
「それは」
ショーンは変な顔をした。
「……嬉しいのか嬉しくないのか、全然わからない」
「俺は、ショーンが同じこと言ってくれたら嬉しいけど」
「──そうかい?」
少しだけ唇を尖らせたショーンが、まだ複雑そうな顔のままデイヴィッドを見上げてきた。
「そうですよ」
My dear Sean、と囁いて抱きしめる。ショーンは素直に体重を預けてくれた。


「う……あ…………っ……」
「ショーン…………」
身体を伸ばすようにしてショーンの髪に口付ける。そのせいで、中に収まったデイヴがいいところを擦りあげて、ショーンは悲鳴とも歓声ともつかない声をあげた。
「あぁ………っ、……イヴ……っ、デイヴィッド……!」
いやいやをするように金髪を振り乱してショーンが腰を揺らした。
何一つ隠せない陽光の中に白い身体をさらしたショーンはとてもきれいだった。
光の中に溶け込んだ金の髪も、目元から流れ落ちてシーツに染みをつくる透明な雫も、赤くそまった目元も、ほんのり薄桃色に上気した肌も。
滑らかな背中の中心を通る背骨や、腰椎のごつごつしたラインまでが、濃い影を作る。
それから、絡み合った二人分の脚の基点、もっと深く隠された場所。
秘密は暴れるまでが甘美なのであって、白日の下に晒された途端に、それは魅力を失う、と思われている。でも、例え99%それが真実だったとしても、常に法則には例外がつきまとうのだ、とデイヴィッドは身をもって知った。
「は……あん……っ……」
途中からぎゅっと目を閉じて、自分だけの闇を作りだしていたショーンは、それだけでは堪え切れなくなったのか、マットレスに顔を伏せてしまった。そうすることで、腰だけをデイヴィッドに差し出している。
自分の雄を受入れているその場所は紅くて、いやらしくうごめいていて、準備から今までの間に色んな液体に濡らされてぬらぬらと光っていた。それは自分を包んでいる媚肉の心地よさとはまた別のルートからデイヴィッドの腰を刺激した。
やがてそれは一つの方向に向かって急速にデイヴィッドを追い込んでいく。
恋人の限界を感じ取って、ショーンが呻き声をあげた。
「う……あ……、デイヴィ……」
吐息までが空気を染め上げる気がする。
きっとがっかりする、なんて言ったのは、首筋までを真っ赤にしてデイヴを煽る年上のひとだったろうか?
「ショーン……ショーン」
「ああ……っ!」
デイヴィッドの手の中で、ショーンは弾けた。
白い、ショーンの熱。上気した肌の色。汗を吸って、いつもより色の濃くなった金の髪。桃色珊瑚の耳。紅珊瑚の唇。潤んだ、翡翠の瞳。
デイヴィッドとつながった、秘められた場所。
アリババの見つけた魔法の洞窟にも、こんなに見事な宝は収められていないはず。
目で見ることのできる秘密を全てさらしても、ショーンはやっぱりきれいで、壮絶に艶っぽかった。
抑えきれない快楽がぐうっと膨れ上がってきて、理性を片隅へと追いやっていく。
ひときわ深く突きこまれて放たれた恋人の情欲の熱さに、ショーンはかすれた悲鳴をあげた。

+++++++++++++++++++++

「だから、私は6歳も年上だと言ったじゃないか……!」
「それは全然問題じゃないって、今証明して見せたじゃないですか?」
バスルームから出てきてみると、またもやみの虫に戻ってしまった年上の恋人に、デイヴィッドは不思議そうに首をかしげた。
「そうじゃなくて! ちょっとは私のペースも考慮してくれ、と言ってるんだ!」
鮮やかに色づいたショーン、という新しい視覚刺激を知ってしまったデイヴィッドは、一度で恋人を解放できずに、結局身支度の時間をぎりぎり残して、チェックアウトの時間を迎えてしまった。
それだって、ショーンが「もうチェックアウトだから」「君が借りたロッジに行くんだろう」と切れ切れに訴えなければどうなっていたかわからない。
「……そうですね、すみませんでした」
あなたが疲れてるのはわかってたのに、と声を落として謝るデイヴィッドに、ショーンは少し言いすぎたか、と思った。
一方的にデイヴィッドが襲い掛かってきたわけじゃなし──それに、ああいう、わかりやすい愛情の示され方は、決して、嫌いでは、ない、し。
「デイヴィ……」
「ショーンの準備は責任もって俺がします。あなたはマグロになっててくれればいいですから!」
デイヴィッドは、そう、力強く保証して、ショーンの身体を抱き寄せようとした。その勢いに、ショーンは本能的にあとずさる。
「じゅ、準備って……何するつもりだ!」
「え、ですから、まずシャワー……」
「余計な気をつかわなくていい!」
手元の枕を思いっきりぶつけておいて、ショーンはベッドから滑り降りた。
少しばかり腰がふらついたが、根性で立ち上がる。
「ショーン……」
「準備というなら、荷物の用意でもしてろ!」
言い捨ててバスルームへ歩いていくショーンの身体は、きっちりと上掛けにくるまったままだった。
今さら、恋人の視線を避けようとするショーンが可愛くてたまらない。
思わず頬を緩めたデイヴィッドに、ショーンがくるりとふりむいた。
「……もし、覗いたりしたら絶交だ」
デイヴィッドはとっさに真面目な顔をつくろった。
「ゴンドーリアンの名誉にかけて」
「────」
疑り深そうな視線を投げかけておいて、ショーンは扉を閉めた。
「〜〜〜〜〜〜」
シャワーの音が聞こえ始めると、デイヴィッドはこらえきれずに吹き出した。
昨日、失礼にも荷物置きにした方のベッドに転がり、腹を抱えて爆笑する。
笑って、笑って、気が済むまで笑い転げてから、部屋中のカーテンを全開にした。
きらきらと白い光が部屋中に満ちる。
窓ガラスの形に切りとられた青空が、二人の休暇の始まりを祝福しているようだった。

END
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2004.09.22

ここどこ?(笑)
多分、二人でこっそりどっかで落ち合ってデート……ていうか、リゾート。
切れ目なく仕事を引き受けてる二人にそんな時間あるか、というツッコミは、もう自分でやったんで勘弁してください。
お付き合いを始めて、まだ割と日の浅い二人。
公さん、お誕生日おめでとうございます。一日遅れですみません……。