卒業論文 要約
テーマ:路面電車のある街
はじめに
 路面電車は、少なくなったとはいえ全国各地を走り回っている。現地では市民の足として根付き、都市交通機関としての役割を果たしている。しかし一方で、かなりの数の路面電車が廃止されたり、違う交通機関に転換されたりしている。そこで、なぜ路面電車は減少したのか、また現在も各地を走っているのか調べてみることにした。

第一章 路面電車の歴史
*現在の路線
現在(1999年2月現在)、日本で路面電車の走っている路線を挙げると、次のようになる。

*発祥から最盛期まで
 路面電車発祥の地は京都である。明治28年(1895)、内国勧業博覧会が四か月にわたって京都で開かれることになり、その見学者の輸送と、またそれ自体を呼び物とするため、電気車を走らせることが計画され、京都電気鉄道株式会社が設立された。そして、大正7年(1918)に京都市電に買収され、昭和53年(1978)、全面廃止まで京都中をネットワークしていたのである。この路面電車は日本初であるが、世界でも5番目という世界的に見てもかなり古い歴史を持つ物であったのである。
 それ以降、明治31年(1898)に名古屋、明治32年(1899)に大師、そして東京には明治33年(1900)と、路面電車が次々に開業していったのである。第2次世界大戦で、各地の路面電車は甚大な被害を受けたが、戦後、街とともに復興し、昭和30年代がもっとも路面電車の栄えた時代であるといってもよい。

*最盛期から現在まで
 その昭和30年という時代であるが、当時の路面電車の輸送分担を表にすると次のようになる。(『路面電車時代』 吉川文夫著 から抜粋。データ自体は昭和52年版『都市交通年報』による)

昭和30年度  首都圏人口 13,029千人
輸送人員 国鉄
私鉄
地下鉄
路面電車
バス
ハイヤー・タクシー
1,858,384千人
1,167,533千人
151,436千人
836,309千人
788,474千人
340,082千人
5,142,218千人

 昭和30年度では、路面電車の輸送人員は全体の約16%を占め、割合ではバスより大きい。これが、京阪神では約23%、中京圏では約36%とより高くなるのである。全国規模で見ても約17%となり、当時の人々がどれだけ路面電車を利用していたかがわかる。
 戦後の復興は、路面電車だけでなく自動車産業にもっとも大きく効果が現れた。昭和40年代にはいると、大都市の道路は車であふれ、路面電車は邪魔者扱いされていた。道路の渋滞で路面電車は定時運行が困難になり、昭和40年代中頃から、大都市の路面電車は姿を消していった。

第二章 路面電車の生き残った街、復活した街
*なぜ生き残ったか
 現在路面電車が走っている都市は21か所であるが、昭和40年(1965)末の時点では45か所を数えていた。最盛期より約半分に減ってしまった計算になる。その多くは、昭和40年(1965)から昭和50年(1980)頃までの約10年間で廃止され、その後は廃止される件数は減少した。つまり、現在残っている路面電車は存続のために何らかの努力をしたと考えられる。
 まず挙げられるのが、軌道上への自動車の進入禁止である。自動車のせいで定時運行ができないなら、自動車を締め出していこうとの考えである。広島電鉄では警察との協力で、自動車の進入禁止のほかに電車優先信号機を設置している。これは、昭和30年代から続く車優先の社会から電車優先の社会への転換であった。
 また、乗客へのサービスを積極的に行い、路面電車離れを必死にくい止めたところも多い。冷房装置の搭載や、一日乗車券の発売などにより、乗客へのサービスの質は向上した。そのほか、乗り心地の改善、電車が停留所に近づいたことを示す接近表示板の設置など、事業者が行った質的改善は多岐にわたる。
 長崎電気軌道は、昭和59年(1984)年以来、100円均一料金を維持している。コイン一つで乗れるというのも立派なサービスのうちの一つである。同じところを走るバスは140円と40円ほど高いことも、人々に路面電車を利用させる原因となっている。安さが乗客への一番のサービスであろう。

*路面電車の復活
 現在、日本でいったん廃止された路面電車が復活した都市はない。しかし世界各国では、路面電車の役割が再認識されて復活する例が相次いでいる。
 日本よりもはるかに早くモータリゼーションの波が押し寄せたアメリカでは、1960年代時点で路面電車はほぼ壊滅状態であった。現在でも鉄道自体が大陸横断鉄道などの限定された形で残っているにすぎない。しかし、1970年代以降は環境問題から電車が見直され、公共交通機関の見直しが叫ばれた。そして、公営による公共交通の運営を進めることとなり、路面電車が再び脚光をあびるようになったのである。現在、ボストンやサンフランシスコ、ボルチモアなどで路面電車が運行されている。
 そのほか、イギリス、フランスなども路面電車が全廃寸前まで追い込まれていたが、新しいシステムでの運行(LRT、後述)により復活し、成功を収めている。そしてその成功により、今後も建設を予定している都市は増加している。

第三章 路面電車の役割
*環境問題と路面電車
 路面電車はガソリンを使うことがないので、空気を汚すことがほとんどない。ただ、電気を作る段階での火力発電による環境破壊は考慮に入れなければの話だが。(火力発電による空気の汚染については未調査)また、人間一人を運ぶエネルギーは自動車よりはるかに少ない。それは路面電車が鉄の車輪で鉄のレールの上を走ることにより、走行にかかる抵抗を低く押さえることができるからである。

*交通弱者と路面電車
 地下鉄は地下にあるので、利用しようとすると地下に降りなければならない。最近ではエレベーターも整備されてきたが、後から設置しているので、場所がわかりにくかったり、とても不便な場所にあったりすることが多い。路面電車なら、道路上にあるので乗り場まで行くのに非常に楽である。
 最近では、従来型路面電車と区別して、「ライトレール・トランジット(LRT)」という言葉が使われるようになってきた。これは以前の路面電車とどこが違うかというと、環境保全、資源効率の追求、交通弱者対策が施され、利便性などが増していることなどが挙げられる。現在もっとも進んだ路面電車を走らせているのは熊本市交通局である。普通は車輪や機械などで埋まって、道路から電車の床まで70センチから1メートルくらいある段差が、ここに平成9年(1997)に導入された路面電車にはほとんどない。車椅子やベビーカーでも、安全地帯から平行に電車に乗ることができるのである。これからは、このような路面電車が主流になっていく物と思われる。

まとめ
 「路面電車は過去の遺物、時代遅れだ」と思いこんでいたが、今回調べていくうちに「過去ではなく、未来の乗り物だ」という認識に改められた。計画次第では大都市の大気汚染や渋滞が減り、人々の流れがスムーズになって正常な発展につながると確信した。

参考文献
・『懐かしの路面電車』 山田京一・小野打真編 1998 新人物往来社
・『路面電車時代』 吉川文夫著 1995 大正出版
・『カラーブックス722 路面電車』 大塚和之・諸河久 1987 保育社

補足
 今回は、自分の目で見た情報は少ない。少なくとも一回は現地に行って調査しなければならないと思う。こんなことだったら、熊本でノーステップの路面電車に乗ったときに、もっと調べておけばよかった。
 路面電車だけでなく、バスやモノレール、その他の交通機関と比較して、なぜ路面電車が優れているかをもっと深く調べてみたい。たぶん建設費や乗車定員などで利点が見つかるような気がする。
 環境問題、交通弱者問題はこれからの日本社会に深く関わっていくテーマだと思うので、もっと詳しく調べていく必要があると感じた。そうすれば、路面電車の未来という物が見えてくるように思う。

(C)Yas 1999

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