第4回駅家ラーメンオフ
〜2000.11.6〜


秋もすっかり彩りを抱え始め、一週間の始まりを迎えたとある月曜日。
土日休みのサラリーマンであればきっと憂鬱な1日だったに違いない。
俺は仕事の疲れを押し殺し、カセットテープのクリス・レアを浴びながら細身のナルディを握っていた。
家路へと向かうBA1は足周りをリニューアルしたてで、堅いながらも心躍るスタビリティを俺に伝えてくれる。

いつもの通勤路R486、新市消防署に隣接し1年ほど前にOPENしたビリヤード場“LOFT”、
何気なくふと駐車場へ目をやると見覚えのある白4thが止まっていた。
HiroのFスポにテク・キャスの17インチ、そしてリアスポにべったりと付着した葡萄の実。
(こっ、これはっ、まさしく・・・・)

通り過ぎながらもすぐさま携帯電話にてクルマの持ち主を呼び出そうとする。 が、しかし
『こちらはNTTドコモです。お客様がお掛けになった電話は・・・』と無情の声。
(畜生、ゲームに集中するために電源を切っているのか? それともお得意の電池切れか?)
仕方なくUターンかまし、前日の洗車を物語るその白く輝く肢体の隣にBA1をパーキングしてやった。

綺麗に磨かれたガラスウィンドウ越しに店内を覗く。 居た、どうやら独りらしい・・・。
蛍光灯で白く照らされた店内に入り7番台へと近づく俺。 それに気付く彼。
「あぁ、川Bさん!」
「よぉ、個人練習? 熱心だね」
「そうなんすよー、週末に備えて。 調子あがんなくってね。 どうっスか?川Bさんもやりません?」
「そうだね、ちょっとだけやろうかな」
心地よい挑発に乗り、俺はエントリーカウンターへ向かう。
受付の女性はロングヘアのスレンダー。 あえて例えるなら芳本美代子似であった。
愛想は95点。 最近の娘にしては群を抜いている。

月に一度、仲間内でのビリヤード大会を数日後に控えた彼は、コンスタントなペースを維持するために
ここへやってきていた。
紹介しよう、彼の名は“かっくん”。 またの名を“プレ夫”。 そのまたの名を“平成の城みちる”。
一体いくつの名前を持てば気が済むのだろうか。
そしてどのようにそれらの名前を使い分けているのであろうか、つい詮索したくなる・・・・俺の悪い癖だ。
本職はエンジニアだが、副業としてビリヤードのインストラクターをしているらしい。
しかしその腕前を見たヤツを俺は知らない。
(本当に上手いのか?)
確かにヤツはいつも愛車のナビシートにキューの入ったハードケースを置いている。
¥20000で手に入れたそれを武器に戦闘態勢に入った彼を見たのは俺が始めてのようだ。
(さぁ、お手並み拝見といこうか・・・)

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1時間ほど経っただろうか。
“運”で勝敗の決まる事の多いナインボールはほぼ互角の成績。
それでもきっとヤツが手を抜いてくれたに違いない。
「小生意気なヤツだぜ」
彼は聞こえないふりをしてスプライトを飲み干した。
そんな憎めないヤツに敬意を表してスプライト代を先に支払ってやる俺がそこに居た。

22時を前にしてお互い夕食を迎えてないのを確認し、近所のラーメン屋へ向かう。
しかしヤツの4thのリアビューはいつ見ても笑える。
エアロの形状からしてテールランプを点灯させた姿が“ちょっと間抜けなナマズ”に見えて仕方がないのだ。
しかもそのナマズ君、ちょっと笑ってるかのよう。 でなんだか俺をあざ笑ってるようにも見えるのだ。
(たしかにさっき、手玉と6番玉を間違えて突こうとしたのは事実だが・・・・そこまで笑うこたぁねぇだろ?)
でもオーナーであるヤツが笑い上戸であるのを思い出し、妙に納得してしまった。

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走りはじめて約1分後、“ラーメン大統領”駅家店へ到着。
ヤツの自宅そばに半年ほど前にOPENしたチェーン店で、最近山陽エリアにどんどん展開中である。
ラーメンは1種類のみ。 よほどの自信からなのか? コクのあるスープで押しまくりの経営のようだ。

さっそくテーブルに着きオーダー。
モノが出てくるまでしばらく談笑、と同時にPFCメンバー数人に電話攻勢。 
呆れと羨望の交錯した言葉を2人で受け止める。
彼(彼女)らがもし近くに住んでいたら今頃肩を並べてシコシコ麺をすすっていただろうに・・・残念だ。
こうしてヤツと2人でラーメンを食べるのはこれで3回目。家が近所と言うこともあるが理由はそれだけではないようだ。
(もしかしてヤツはホモなのか? 俺のケツを狙っているのか? もしくは俺の伴侶を?)
といろいろ推理してみたがすべて違うことに気付いた。 いつも俺の方から誘っているからだ。
(ということは俺がホモなのか? ヤツのケツを狙っているのか? もしくはヤツの母親を?)
俺は携帯電話を耳に当てるヤツの顔を眺めながら心の動揺を抑えようと努力した。

間もなくしてラーメン・餃子・ライスが到着。 俺達はそれを空きっ腹に収めていく。
最近のラーメン屋はどうしてこんなにコクを求めるのだろうか?
俺としてはもう少しあっさりとした味が好みなのではあるが。
食べ始める頃にはラストオーダーを迎えたらしく、駐車場の照明も既に落とされていた。
2世代のギャップがあるにせよ白く光る2台のプレリュードが湯気の向こうでオーナーの帰りをじっと待っていた。

後かたづけに追われるギャルソン(と言うより店員)に押し出されるかのようにキャッシャーへ向かう。
駐車場へ戻りわずかばかりの照明の中、寒さを肌で感じながら談笑は続けられる。
週末の話、仕事の話、クルマの話、オフの話、、、そして恋の話。
(若いっていいよな)
思わず口にしそうになりながらもグッと喉の奥へと飲み込んだ。
(『恋は遠い日の花火ではない』だもんな。京塚センセよ。)

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23時を回り、翌日の仕事が頭をよぎり始める頃 どちらからともなく帰宅の準備、そう 暖機だ。
乾いた夜風の中を乾いたHONDAサウンドが響きわたる。

「じゃ、また今度」
ボンネットを覆っていた夜露がエンジンの熱で夜空へと舞い上がるのを確認し、それぞれの愛車に乗り込んだ。

(暖機か・・・ヤツはここから数秒で帰れるのに・・・
ここまで俺に合わせてくれているのか? 結構気遣いしてくれるんだな、サンキュッ!)

俺は数分間のクルージングを味わいながらコクピットで次のように呟いた。
「畜生、また歳下のヤツにご馳走になっちまったぜ」
わずか開いたサンルーフからの風が涼しげな懐を通過して涼しげな心へと吹き込んでいった。

「寒い中でのオフも悪くはないよな」
寝床である駐車場で俺はBA1に囁いた。 立冬を翌日に控えた寒い晩だった。