イワンちゃんのお部屋

こちらは001ことイワンちゃんのお部屋です。
イワンちゃん目線で色々なことを語っています。

以前、エイプリルフール企画として年一回の連載でした。
年一回の同日ということで時事ネタ風なものも混ざっています。

 

第四話//2013年4月1日初出

 

ふふふ。
僕は001。泣く子も黙る天才ベビーだ。
年一度のこのシリーズもかれこれ5年になる。まさかこんなに続くとは誰も予想していなかっただろう。天才である僕にはちゃあんとわかっていたけどね。ただ、なぜ昨年は休載になってしまったのかそれは僕にもわからないけれど。

さて。

今年もゼロゼロナインとゼロゼロスリーの話をしてみようと思う。が、新しい発見は特にない。つまり、この二人はいつでもどこでも全く変わらずの関係を維持しているということだ。それは、とりもなおさず平和だということだから、僕としても異存は無い。無いのであるが、それは進歩が無いといえなくもないことだから、人類の成長を考えると良いことなのか悪いことなのか判断に迷うところである。
今日はそれについて考えてみようと思う。

 

***

 

それは、ある日の昼下がりのことだった。
いつものお散歩の時間で、僕は、今日はベビーカーなのかだっこなのかどっちだろうとわくわくしながら待っていた。
するといつもはいないはずのゼロゼロナインが現れて、なんと僕をだっこしたのだ(!)。

ゼロゼロナインのだっこ。

それは、非常に安定感のあるもので、僕としてはちょっと伸びをしても落下などの心配をする必要がないから、思い切りのびのびできる抜群の場所であった。
が、居心地は良くはない。
それはそうだろう。何しろ、ゼロゼロナインは固いのだ。腕も胸も手でさえも。全体的にふわふわで柔らかくていい匂いがするゼロゼロスリーのだっことは雲泥の差だ。
だから僕はちょっと不機嫌になった。てっきりゼロゼロスリーと二人だけのお出掛けだと思っていたのだ。

・・・ゼロゼロナインはレースで不在じゃなかったのか。

「イワン、何か言ったかい?」

別に。

「機嫌悪いなぁ。おむつかな」
「さっき替えたばかりよ」
「じゃあ、ミルク?」
「ううん。――どうしたのかしら、イワン」

ゼロゼロスリーが心配そうに僕の顔をつつくから、僕は仕方なくちょっと笑ってみせた。別にお出掛けが嫌なんじゃない。ゼロゼロスリーのだっこじゃないのが不満だ――なんて、そんな子供っぽいことで拗ねてみせるのは僕らしくない。なんといっても僕はスーパーベビーなんだから。

「アラ・・・機嫌が直ったみたい。フフ」

ゼロゼロスリーが可愛く笑ったから、僕はほっとした。
まあいいさ。彼女のためにも今日は僕が譲歩しよう。それに、ゼロゼロナインのだっこでも時にはいいこともあるのだ。彼は背が高いから、普段の僕の目線よりも高い位置での移動となり、周囲の景色がいつもと違うのである。

今日はお花見も兼ねているのか、桜が咲いている川辺を歩いている。

「綺麗ねぇ・・・桜。ね?イワン」

ウン――いつもより桜が近い。

するとすれ違うひとのなかに見知った顔がいたのか、ゼロゼロスリーが足を止めた。僕はこういう時、あやされて愛想笑いをするのがメンドクサイから眠っているふりをすることに決めている。
いつものようにダンマリを決め込んで、ゼロゼロナインの胸に埋まっていたら。

「あら、いいわねぇ。今日はおとうさんと一緒なのね」

え。

おとうさん??

「ふふ、そうなんですよ。ね?イワン・・・あら、眠っちゃったのね」

おとうさん・・・ゼロゼロナインのことか。

近所のひとは、僕がゼロゼロスリーとゼロゼロナインの子供だと思っている。そして、それはギルモア邸に住んでいる者はみんな「そういうこと」にしていた。(ちなみに博士はゼロゼロスリーの父ということになっていた)
だから、ゼロゼロナインは僕のおとうさん役である。が、第三者にそう指摘されるのは中々新鮮だった。何しろ、彼と一緒に出かけるのは早々無いのだ。

しばらく歓談したあとで、再び歩き出した。喋っていたのはもっぱらゼロゼロスリーで、その間、ゼロゼロナインはそうですねとかええとかそんな相槌を打つだけであとは無言だった。愛想笑いをしている彼を思うとかなり笑える。そういうことは苦手中の苦手だからだ。今日はそれが見れただけでも収穫だったかもしれない。

「フフ。イワンとおとうさん、ですって」
「・・・そういうことになってるからな」
「やっぱりアナタがだっこしていくことにして良かったじゃない」
「そうかな」
「そうよ。いつも訊かれるんだもの。おとうさんは?って。たまにはこうして姿を見せないと、まるで私、シングルマザーみたいに思われちゃうわ」
「・・・まぁ、協力はするさ」
「でも、こうして観るとお花見に親子連れって多いのね・・・」
「――こども、欲しいのかい?」
「えっ・・・別にそんなこと言ってないわ」
「そう?」
「そうよ」

それっきり、二人の会話は途切れてしまった。
でもゼロゼロナインの胸にしっかり抱かれている僕には、しっかり聞こえてしまったんだけどね。

『僕は構わないよ』

と、彼が小さく小さく呟いたのが。

ゼロゼロスリーにそれが聞こえていないのか、聞こえていても聞こえないふりをしたのかわからないけれど。
ただ、僕としては進歩がないなあって思うわけだ。だってこんな会話、もう――何度したのかわからないってくらい。
いい加減、照れて聞こえないふりをするとか、プロポーズに繋がるから避けるとか、そういうの、終わりにしてもいいと思うんだけどなあ。だってそうしない限り、また延々と同じような状態が続くわけだし、進歩がないし、成長もしないわけだから。

それにね。

僕としては、ギルモア邸に人間の赤ちゃんが加わってもいじめたりなんてしないって誓えるよ?

何しろ僕は泣く子も黙る天才ベビーだからね。

ばぶ。

 

 

第三話//2011年4月1日初出

 

ふふふ。
僕は001。泣く子も黙る天才ベビーだ。
ベビーで天才というのは厳密には計測できないだろうと思うむきもあるだろうが、そこはそれ、便宜上というものがあるのだということをご理解頂きたい。
ともかく、僕は天才なのだ。それもおそらく超がつくくらいの。
つまり、超能力天才ベビーというのが僕の肩書きであり、僕の真実である。そこらにいるベビーとはワケが違う。
格が違うのだ。

でも、最近はあまりそう表立って言わないようにしている。
何故なら、僕がそう言って高らかに笑うとゼロゼロスリーがちょっと困った顔をするのだ。
僕は彼女の困った顔がちょっと苦手なんだよね・・・

 

***

 

困った顔といえば、ゼロゼロナインだ。
いや、別に彼が何を困ったからといって僕には痛くも痒くもない。むしろ、ずっと困っていてくれたって全然構わない。
そうではなくて、ゼロゼロスリーが困った顔をする場合、原因となるのがゼロゼロナインだということだ。
統計をとったわけじゃないから、正確な報告はできないけれど、でもやっぱりゼロゼロスリーを困らせることが一番多いのはゼロゼロナインだろう。うん。

僕が目を覚ましている時、そばにゼロゼロスリーがいてくれることが多いんだけど決まってゼロゼロナインも一緒にいる。それは別に構わないんだけど、そのうちゼロゼロナインが何か言ったか何かしたかして――ゼロゼロスリーが困った顔をするのだ。
そしてため息とともに、「困ったわねぇ・・・」と言うのだ。それも、心の底から困っているというように。

うむ。

ゼロゼロナインはいったい彼女に何をしているのだろうか。
いつか、彼女を泣かせる奴は許さないとか何とかカッコイイことを宣言していたから、それは守っているようだけど。
でもこうして困らせていたら同じことなんじゃないかなって僕は思う。

今度、ゼロゼロスリーを困らせたら僕がゼロゼロナインを困らせてやろう。

僕はそう心に決めた。

 

***

 

「もう、ジョーったら。困ったひとね」

昼間の時間だったけど、うとうとしていたら間近でゼロゼロスリーの声が聞こえた。
目を開けると視界にちょうど入る場所に彼女がいた。でも、顔は見えない。向こうを向いていたから。

――ゼロゼロナインか。

今度はいったい何をやらかしたんだろう?
今日という今日は、絶対にオシオキを・・・・

・・・・・

・・・・・・・・

あれ?

ゼロゼロスリーは困っているんだよね?
だってさっき、困ったって言っていたし。うん。僕はちゃんと聞いたんだから間違いない。

・・・でも。

どうしてくすくす笑い合う声がするんだろう?

「もう、いやなジョー」

なんだか甘えたような声がする。

ええと。

困って・・・・ない。の、かな?

 

・・・・。

 

なんだろう。
どうなっているんだか。

僕にはさっぱりわからなかった。

ただひとつだけ付け加えるならば。

困ったわねと言っているときのゼロゼロスリーってとびきり可愛かったりするんだよね・・・・。

これは僕だけの秘密だったんだけど、どうやらそうでもないと気付いた春だった。

ばぶ。

 

 

第二話//2010年4月1日初出

 

ふふふ。
僕は001。泣く子も黙る天才ベビーだ。
天才には天才ならではの非常にデリケートな悩みがある。
今日はそれについて語ってみようかと思う。

 

***

 

ギルモア邸にはギルモア博士の他に、ゼロゼロナイン、ゼロゼロスリーの若い二人、そして大人たちが住んでいる。
たまに故国に帰ったりしているので、常駐しているのは果たして何人なのか僕には把握できない。
何しろ僕には夜の時間と昼の時間というのがあって、きっぱり分断された日々しか知ることはないのだから。
だからこれは、僕が昼の時間のときのお話であって、うとうとしてたとかそういうものは一切無いと思っていただきたい。

 

***

 

それは、お風呂の時間だった。

僕はこう見えても入浴が好きだ。
うっかりミルクを吐いてしまった痕も、これできれいさっぱり消えてなくなるわけだからね。もちろん、ゼロゼロスリーはきちんと着替えさせてくれるし、優しく頬と口元を清潔なタオルで拭ってもくれる。
でも、それとこれとは違うんだな。

そんなわけで、僕は入浴が好きなんだけれど、それは――あくまでも、一緒に入るひとによって決まる。

もちろんみんな、最初はへたくそだった。
何しろ、子供を持った経験のある者はいないようだったし、博士に関しても僕を抱っこする時点で腰が引けているという始末。僕を改造するにあたり、かかった年月ぶん、あやしたり何やかやで僕を抱っこする機会はあっただろうに。
それとも、僕は手術用ベッドにずうっと縛り付けられていたのだろうか。
この話をすると、博士が凄く悲しそうな顔になるので、それ以降はしていない。

で、誰が一番上手かというと、案外というか当然というか――ゼロゼロエイトだった。
彼には兄妹がいたらしく、こどもの面倒を見るのには慣れていたらしい。さすがの僕も、彼の頭の中の記憶を勝手に読むわけにはいかないから、本当のことはわからないけれど。
でも、ともかく上手だったから、僕はゼロゼロエイトと一緒に風呂へ入るのが楽しみだった。

 

 

えっ?

ゼロゼロナインとゼロゼロスリーの話はどうしたのか、って?

 

だってさ。
僕としては、いい大人が独りで風呂に入れないっていうのはおかしな状況だと思うんだよね。
僕はこの通り子供だし、まだ自力で風呂には入れないから必ず誰かと一緒に入る。
でも、ゆくゆくは僕だって独りでゆっくり入ってみたいと思うから、いつか――それが叶う日を楽しみにしているわけだけど。
だからつまり、大人は一人でゆっくり入浴できるのだから、何も複数で入らなくてもいいのではないかということだ。

なのに。

ゼロゼロナインとゼロゼロスリーは殆ど毎回、一緒にお風呂に入っている。
なんとも意味がわからない。
ふたりとも大の大人なのに。他の者より年齢が若いとはいえ、大人なのだ。
じゅうぶん、ひとりで入れるだろう?
それとも、ひとりで入るのが怖いのだろうか。おばけが出てくる、って――

 

――確かに、それは怖い。この間、ゼロゼロツーからそういう話をたくさん聞いて以来、僕は誰かと一緒の大好きなお風呂タイムでさえ、頻繁に背後を見るようになってしまった。

 

「あら、イワン。どうしたの?」

いつものように背後をちらりと見ると、目の前のフランソワーズが心配そうにしていた。

「ううん。なんでもないよ」

それより、今日はゼロゼロナインと一緒に入浴しなくていいのかい――と訊きそびれた。

「今日はねえ、ジョーは遅くなるって連絡がきたのよ。博士とちょっと飲んでくるみたい」
「フウン・・・」

問わず語りでゼロゼロスリーが話し出す。

「車じゃないからいいけど、ちょっと飲み過ぎないか心配よね?」
「ソウダネ」
「あら、でも・・・」

不意にくすくす笑うゼロゼロスリー。
いったいなんだというのだろうか。

「――そういえば、一緒にお風呂に入ろうって言ってたから、大丈夫よね?」
「・・・」
「ジョーったらね。一緒に入るのが重要なんだ、っていっつも言うのよ。変よね」

うん。
変だね。
でもゼロゼロナインってそもそも変じゃなかったことがあったかな――?

「あらやだ!私ったら、イワン相手に何言っちゃってるのかしら!やだわ、もう」

頬を染めるゼロゼロスリー。
いったい何を思いだしているのやら――覗くのは簡単だったけど、何故かそうしてはいけないような気がしてやめた。

大人には大人の複雑な事情があるのだろう。
それは、ゼロゼロスリーの首筋にときどき痣ができているのと何か関係があるのかもしれないし。

ね。

ばぶ。

 


 

第一話//2009年4月1日初出

 

ふふふ。
僕は001。イワン・ウイスキーという天才ベビーだ。
いつもはカタカナで喋っているけど、それでは読みづらいだろうからこういう表記にした。
僕って気配りもできるのだ。

さて。
いつもはここは、どうみても僕より子供に見える009と003の二人がメインになっているのだけど、今日だけは僕が担当することになった。
だから、普段あの二人が語らずにいることを語ってみようと思う。
僕が被っている迷惑もわかってもらえることだろう。

 

***

 

いつもの昼寝の時間だった。
ふんわりと頬を撫でる風が心地よくて、僕はベビーベッドで惰眠をむさぼっていた。

でも、そろそろお腹が空く頃合だったから、いずれ起きなくてはならないのもわかっていた。
完全にお腹が空くのは、おそらく今から10分後。
それまでもうちょっとこのまま――

!?

いきなり、僕の愛用していたおしゃぶりが取り上げられた。

誰だ。
この僕にケンカを売るというのかい――

目を開けると、ゼロゼロナインが立っていた。手に僕のおしゃぶりを持って。
でも、意地悪な顔をしているのではなく、何だか背中がくすぐったくなるような――やだな、そんな顔で見られても困るよゼロゼロナイン――優しい笑顔だった。

僕が何も言えずに呆然と彼を見ていると、その横から白い手が伸びて僕の頬を優しく撫でた。

「イワン、起きたのね。――お腹すいたでしょう」

うん。

フランソワーズはいつもすぐ僕の気持ちをわかってくれる。

彼女はしばらく僕を見つめ、そして傍らのゼロゼロナインに視線を転じた。

「ジョー。またイワンのおしゃぶりを取り上げたのね?」
「だって、ダメだよフランソワーズ。何度言ったらわかるんだい?」
「でも、イワンのお気に入りなのよ?」
「お気に入りでも何でもダメなものはダメだ。こんなのしてたら、いずれ噛み合せが悪くなってしまう」(注:という事例があります)

「・・・全く」

フランソワーズは立ち上がると、至近距離からジョーを見つめた。

「スタッフに何を教わってきたのかしら。急にイワンにこんなに構うなんて」
「別に、いいだろ」

くすくす笑うと、ゼロゼロナインは少し口をへの字にした。彼はよくこういう顔をする。変顔だ。

「イワン。いまミルクの準備をするから、待っててね」

うん。わかった。

フランソワーズがミルクを準備するのは大体10分くらいだった。ちょうど、僕の空腹がピークになる時間だ。
さすが、よくわかっている。

 

が。

 

10分待っても、20分待っても、ミルクを持ったフランソワーズは現れなかった。
いったいどうしたんだろう、何があったのだろう――と、階下のキッチンにいるであろう彼女に意識を向けてみる。
彼女の思念を捉え、直接いったいどうしたのか訊いてみよう・・・とした時、物凄く強い思念に遮られた。

『イワン。そんなことをしてはいけない』

ゼロゼロナインだ。

彼は僕に、勝手に他人の心を覗くことはいけないことだと再三注意してくる。
全く、うるさいなぁ。
大体、喋らなくても相手の気持ちがわかるなんて便利な機能、使わないほうがもったいないじゃないか。
彼にはそういうものがないから、わからないんだ。

なのに。

僕の大好きなフランソワーズも、にっこり笑って「そうよ、イワン」などと言うのだ。

・・・・。

フランソワーズが言うなら、そうなのかもしれないな・・・

 

ともかく、今はミルクだ。
僕は本当にお腹が減ったので、ここは一発泣いてみよう――と空腹を抱え声をあげた。

が、

「どうしたイワンっ!!何事じゃ!」

と駆けつけてきたのは博士だった。
僕が泣くと何かよからぬ前兆だと思うらしい。

・・・そうじゃないんだけどなぁ。

でも、抱っこして階下に連れて行ってくれるみたいだから、ラッキーだ。
そこできっと、フランソワーズにミルクのことを言ってくれるだろう。

それにしても、フランソワーズは何をやってるんだろう?

 

――そういえば、ゼロゼロナインの変に強い意識に追い返されたんだったっけ。

 

・・・・・。

 

・・・・・なんか、前にも同じことがあったような気がする。

あの時は確か・・・・

 

***

 

 

僕は、あの二人が仲良くしてようがチュウしてようが全然興味がないけれど、それをミルクの準備中にするのは勘弁して欲しいなあと常々思うんだよね――

頼むよ、ゼロゼロナイン。

僕がミルクを飲むまで邪魔はしないでくれ。
その後なら、きみが誰と何をしようが僕の知るところではないのだから。

ばぶ。