003的考察

 

(1)釣り

「えっ?いま何て言ったの?」
両手を腰に当てて振り返る。
その双眸は心なしかちょっと厳しい。
「え、・・・っと」
聞こえていないはずはないんだけどな・・・
心理的に身構えつつ、もう一度繰り返す。
「大人と釣りに行ってくる、って言ったんだけど」
背後から大人も何事かと顔を覗かせている。
右手には釣竿。左手にはバケツを持って。
既に準備万端。
「・・・大人はともかく・・・」
ずい、と一歩踏み出して。
「ジョー、アナタが行くのは駄目!!」
「えーっ、なんで」
「そんなの、自分で考えなさい」
ぷん、と頬をふくらませてキッチンに行ってしまう。
軽く肩をすくませて大人の方を見る。
「駄目だってさ」
「ジョーは釣りに行っても釣れないからアルかね?」
「・・・さあ?」
今まで止められた事は無かったのにな。
しばし黙考。
「どうするアルか?」
「いいや、行っちゃおう」
「フランソワーズに内緒でアルか?それはまずいアルよ〜。
家に入れてもらえなくなるアルからして」
「入る気になればいくらでも方法はあるし♪」
「駄目アルよ〜」
おたおた。
大人がキッチンと僕とを交互に見つつ、困っている。
「・・・わかったよ大人。ちょっと待ってて」
キッチンに入る。

 

全く、もう。
温めてあったミルクの温度をみる。
ほっぺたに哺乳瓶をそっとあてて。
全然、わかってないんだから。
「フランソワーズ?」
ほら来た。
「なんで釣りに行ったら駄目なんだい?」
目を見ちゃ駄目よ、フランソワーズ。
彼の目を見たらアウトだからね。
見る時はいっそカメラアイが視えてしまうくらいの勢いでないと。
自分に言い聞かせてから、ゆっくり振り向く。
視線は彼の前髪に固定して。
「危ないからよ」
「危ない?」
一瞬、きょとんとしてから盛大に笑い始める。
「おいおいフランソワーズ、危ないって、僕らはサイボーグなんだから、簡単に溺れたりしないよ」
大笑いから馬鹿笑いになりつつある彼をキッチンに残して廊下に出る。
手前の部屋のドアを開けて、揺り篭に近寄る。
「心配性だな、きみは」
くっついて来た彼が、戸口でにやにやしてる。
無視するのよフランソワーズ。
イワンを抱き上げて、傍らのロッキングチェアに腰掛ける。
「晩ごはんのおかず、期待してて」
「えっ、ちょっと待」
待って。と、いう間もなく行ってしまう。
・・・・。
深いため息。
全然、ひとの話を聞かないんだから。
どうして釣りに行ったら危ないのか、って?
だって
いつもアナタが釣りに行くと、マトモじゃない事が起こるんだもの!!

数時間後。
イワンのミルクがあと一回分でなくなる事に気付いたフランソワーズは買出しに向かった。
が、そこで何者かに拉致されてしまうのだった。
釣りをしているジョー達の、背後をゆくボートに彼女が乗せられているとは彼らが知るはずもなく。
(だから、釣りに行っちゃ駄目って言ったのに・・・空しく響くフランソワーズの心の声)

 

ギルモア博士の後日談。
「うーむ。フランソワーズの、独りでお買い物というのも禁止したほうがいいかもしれんな」

 

大人の後日談。
「ワテも反省したアルよ〜。だから気をきかせて、ジョーとフランソワーズを二人きりで帰らせたアル」
「大人にしては上出来だな」
アルベルトが言うと、途端に殺気だった大人が正面に回りこむ。
「そういえばアルベルト!!電話代、払うアルヨロシ!!」
「電話代〜?」
「コレクトコールなんてひどいアル!」
「あー。」
天を仰いでしばし黙考。
さて、どうやってごまかそうか・・・