「場所取り」

 

そもそも、ジョーに場所取りを頼んだのが間違いだった。

 

 

お花見をするなら、朝早くから行って場所取りをしなければ!と
大層意気込んで朝早くギルモア邸を出て行ったジョー。
レジャーシート数枚と、漫画雑誌、それから私の作ったお弁当(昼ごはん)を持って。

確かに場所は取れていた。
桜の名所で有名な公園の、一番大きな桜の木の下に私たちの場所はあった。
が――
場所取りをした本人は不在だった。
普通はそこに居るもんじゃないのかしら。
不在にしても場所を取られる心配がないなんて凄い自信というか・・・変。

ともかく、ジョーが取った場所にはわかりやすく
「ギルモア博士ご一行」と書かれた大きな紙がシートに張られていた。
そして気になったものといえば・・・
その下に赤い字で書かれている「無断進入罰金一億円」の文字。

罰金一億円???

それを書いた当人はいったいどこにいるのかと四方に視線をめぐらせてみるけれども気配もない。

首を傾げつつ、ともかくジョーが取ってくれた場所に荷物を置こうと一歩踏み出した。
と。
足の爪先に火花が散った。
――なに??

そうっと足を戻し、今度は手を差し込もうとして――

「危ないから、やめたほうがいいですよ」

どこからか声がかかった。
見ると、隣のシートに居る男性だった。

「そこ、危ないですから入らないほうがいいですよ」

危ない?

「なんか知らんけど、入ろうとすると火花が散るんですよ。――ほら」

指を掲げてみせる。
包帯が巻かれてて痛々しい。

「さっきヤケドしちゃいまして」

改めて周囲を見ると、どうもその被害にあった人は少なくはないらしい。
注意して見れば、指先に包帯を巻いたひとが結構居る。
そして、この一角を除いた周囲は異様に混み合っており・・・うちのシートが敷いてある陣地は一種異様な雰囲気を醸し出していた。

ジョーはいったい何をしたの?

けれども、当人がいない。
どこかに出かけるから、誰も入ってこられないように何か細工をしたのだろうか?

「あのー・・・ここにいた人、知りませんか?」
さっきのひとに聞いてみる。
「――ああ。男の人ね。ついさっきまでいたんだけど」

話によると、ジョーは漫画を読んだあとお弁当を食べて・・・
そのあと、退屈しのぎなのか、舞い降りてくる桜の花びらを空中でお箸で摘み取るということを繰り返していたらしい。
まったく、何やってるんだか。

 

 

ともかく、入れないしジョーはいないし、途方に暮れていたら――
忽然と、陣地中央にジョーが現れた。

「ジョー!?」

うつ伏せに倒れている。しかも。
ヤダ。防護服姿っ

慌てて見回すけれども、ぼちぼち始まっていた宴会の中では防護服姿も余興のひとつと言えなくもなかった。
ので、とりあえず胸をなでおろす。

「ジョーっ」

よろよろと起き上がる。

「どうしたの?・・・中に入れないのよっ」

「・・・ウン。ちょっと待って」

何やら口のなかで呟いて。

「・・・いいよ。もう入れるから」

 

 

朝早くここに来て、いとも簡単に場所取りをしたあとは暇で暇でしょうがなかったという。
持ってきた漫画も読みきってしまったし、お弁当も食べたら本当にすることがなくなった。
なので、暇つぶしに桜の花びらを地につく前に箸で掴むという遊びをしていた。
すると、何か変なものを摘んでしまい――そうして今に至る。という話だった。

「それじゃわからないわ」
「んー・・・説明するのが大変というか難しいというか」
「何があったの?」
「うーん・・・」
「どうしてそんなカッコしてるの?」
「うーん・・・・」
「ジョー!」
「え、あ、ウン。・・・・その、ちっちゃい宇宙人みたいなのが助けを求めてて、それで――」

摘んでしまった変なものというのは、小さい飛行艇のようなものだったらしい。
どうやら時空を越えて漂流していたらしく、成り行き上救助することになった。
そしてここを不在にする間、結界を張っていてくれていたのだそう。
・・・それにしても。

ただの場所取りなのに、どうして事件に巻き込まれるんだろう?

「・・・お弁当、おいしかった?」
「ウン」
「・・・そう」
ならいいわ。

そうして私は、膝の上で眠ってしまったジョーの前髪をそうっと撫でた。

どうして平和なお花見にはならないのかしら?
ジョーに場所取りを頼むのは今年で終わりにしよう。

私は心にそう固く誓った。