注:以下は当サイトの今までのお話を読んでいなければ、かなりわかりにくい話になっておりますので御注意ください。
(旧ゼロ「クリスマス」、新ゼロ「ワルツ」、超銀「正しい加速装置の使い方」、←つまり2008年クリスマスのお話全部です。それから「倉庫」ページにある「シュークリームは誰のもの」)
*3組で温泉旅行に行ったときのお話です。
夕食の時間だった。
テーブルセッティングが済んでいる和室に通された。食前酒をオーダーし、ひとまず新年の乾杯をする。
料理は季節をあしらった懐石料理。なので、ゆっくりと食事を楽しむことができる。
「・・・ねえ、スリーのネックレス素敵ね」
「ほんと。可愛い。私もさっきから気になっていたのよ」
「・・・これ?これは・・・」
スリーは自分の胸元にあるネックレスを指先でそっとつまんだ。
うつむいた頬が朱に染まる。
ちらり、とまつげの奥から正面に座るナインを見る。彼の顔も少し赤くなっていた。
「――クリスマスプレゼントなの」
「まあ。いいわね」
「誰から?」
「あの、・・・ジョーから」
消え入りそうな声で言うスリー。すでに顔は真っ赤だった。
「ええっ。いいなあ」
「うらやましいわ」
同時に言った超銀フランソワーズと新ゼロフランソワーズが顔を見合わせる。
「・・・もしかして、あなたも?」
「ええ。・・・そちらも?」
お互いに、そうなのよと頷く。
「プレゼントどころか、ひとのドレスを燃やしちゃったのよ。ヒドイと思わない?」
「まあ。どうやって?」
「加速装置よ」
ああ、そうよね・・・と頷く003一同。
「でも一体、どんな状況でそうなったの?ミッション?」
不思議そうに尋ねるスリーに大きく首を横に振る新ゼロフランソワーズ。
「ミッションなんかじゃないのよ。ジョーのパーティに一緒に行ったんだけど、もう抜けようっていきなりよ、イ・キ・ナ・リ!」
ひとを荷物か何かみたいに抱っこしてそのまま有無を言わせず加速したのよっ。と力説する。
「ギルモア邸のジョーの部屋の窓に鍵がかかってなかったから良かったけど、全部戸締りしてあったらどうするつもりだったか知りたいわ」
どう、って――その時は窓を破って入ってたさ。というジョーの呟きは当然の如く全く無視される。
「ふたりとも防護服じゃないから、全裸よ、全裸!もうっ。誰かに見られたらどうするつもりだったのかと」
けれども、二人ともそういう状態だった・・・と気付いたのは、帰ってジョーのベッドに落ち着いてしばらくしてからだった。
が、それに関しては棚上げした。正面に座っているジョーもにこにこしたまま何も言わない。
「それで、なし崩し的にプレゼントがどうこうという話はなくて、気付いたらクリスマスなんて終わってたってわけ」
目の前でにこにこしてる新ゼロジョーを見つめ、顔をしかめる新ゼロフランソワーズ。
「うちも似たようなもんだわ。――ね、ジョー?」
話を振られ、注意をこちらに向ける超銀ジョー。彼は003たちの話を全く聞かず、食前酒として出された日本酒のボトルのエチケットを読むのに余念がないのだった。
「うん?なにが?」
「もうっ・・・クリスマスの話よ」
「ああ、クリスマス、ね」
ボトルを傍らに置いて、やっと目の前の超銀フランソワーズに向き直った。
「きみのミニスカサンタは可愛かったよ」
ミニスカサンタ?
4人の視線を一斉に浴びて、フランソワーズは頬を染めた。
「もうっ、やめてよジョー。ここで言わなくてもいいじゃない」
「いいだろう?恥ずかしいことじゃないよ。可愛かったんだから」
「だったら、自分はトナカイだったことも忘れないでね?」
――トナカイ?
4人の目はそのまま超銀ジョーに向けられた。
「ははは、当たり前だろうフランソワーズ。楽しかったなあ。一緒にコスプレっていうのも」
「・・・コスプレしたのか」
「ああ。フランソワーズは赤が似合うからちょうどよかった」
「きみ、トナカイだったって聞こえたけど」
「そう。僕はトナカイをやったんだ。こう、角をつけて」
「・・・それ、何かの罰ゲームだったのか?」
「いや?ただの余興さ」
「余興・・・」
「フランソワーズを抱っこして走る競争。楽しそうだろう?」
それはどうだろう――と腕組みするナインと新ゼロジョー。
ミニスカートなサンタクロースの扮装をしているフランソワーズ。それは・・・確かに可愛いかもしれない。
「・・・意外と似合うかもしれないな」
「だろう?来年、きみたちもすればいい」
「イヤよ!絶対、しないわ!」
真っ赤な顔で即答したのは新ゼロフランソワーズだった。
「そんな、恥ずかしいっ」
「すればいいのに。きみも似合うよきっと」
にっこりする超銀ジョー。
「・・・僕はトナカイをするんだろう?」
ちょっとそれはイヤだなあと新ゼロジョーが言ったので、新ゼロフランソワーズはほっと息をついた。
彼がやる気でないなら実現する心配はないからだ。
一方、旧ゼロのふたりはというと。
「面白そうだな、来年やってみようか」
「そうね。きっとセブンも大喜びだわ」
あ、でもそうすると来年も「クリスマス会」になるのか・・・とナインは複雑な気分になった。
二人でクリスマスっていうの、来年こそはと秘かに思っているのだった。
「――それでね。走っている途中で飽きちゃって、そのままドロン」
「そのまま?」
「ええ。そのまま」
言葉を切り、ゆっくりと食前酒に口をつけるフランソワーズ。
待っても次の言葉は出て来ない。どうやらこれで彼女の話は終わりのようだった。
その正面に座っている超銀ジョーは、笑みを浮かべたまま代わりに話始めた。
「いつだったか、鍵を忘れて困ったことがあるんだ。今回は大丈夫だったけれど」
「鍵?」
「そう。僕の部屋の鍵。まさかギルモア邸に行くわけにはいかないから、僕の自宅へ行ったのさ」
フランソワーズを抱っこしてギルモア邸なんかに行ったら博士が倒れてしまうよ――とにっこり笑う。
「でも鍵がなくてさ。加速を解いたらお互い裸だし。あの時は参ったよなぁ。な?フランソワーズ」
「ええそうね」
「・・・あの、それでどう・・・」
「うん?――仕方ないから、再び加速して自分の部屋のベランダへ跳んだ。でももちろん、施錠してあるのは知ってた」
何しろ、出掛けに戸締りしたのはフランソワーズだしね、とフランソワーズに向かってウインクする。
「窓を破ろうとしたんだけど、そうすると隣のひとが起きちゃうだろう?だから、こう窓枠を持って、そのままゆっくりと――」
サッシを少しずつたわめて、ガラスにヒビが入ったところをフランソワーズがひとつひとつ取り除き、大きな音が出ないように気をつけて。
そうして窓を外して中に入ったのだという。
「入ったときにはふたりともすっかり冷え切ってたから、あっためあうのに時間がかかったよ」
「ジョー!」
きわどい表現をする超銀ジョーを睨んで黙らせる。
「ともかく、今年はそうはならなかったからいいのよ。――そんなわけで、こちらもなし崩し的にクリスマスプレゼントは無し」
「いいじゃないか。お互いがプレゼントってことで」
「そんな事を言うひとは知りません」
「――でも、お互いに洋服が燃えちゃってたならフェアよね?」
スリーが言う。
「例えば、片方が防護服をちゃんと着ていて、片方が普通の洋服っていうのはダメよね?」
「その場合、防護服なのって・・・」
「009よ、もちろん」
ああ・・・それは酷いわ。それはダメよね・・・と003が口々に言う。009たちは無言のままだ。
「ヒドイでしょう?だから、ギルモア邸の周りの草むしりをする刑にしたのよ」
「え?それって例え話じゃなくて、実話?」
「ええそうよ」
「・・・・」
003たちのじっとりとした視線を浴びるナイン。
「え。そんなことあったかな」
「あったわ」
「・・・いや、たぶんないよ」
「ありました」
「そんなわけないよ。そもそもなぜ僕だけが防護服・・・」
「それはこっちが聞きたいわ。私はフランソワーズのところに遊びに行っただけなのに」
新ゼロのふたりのところに遊びに行ったとき、「僕は行かない」と言っていたナインがいつの間にかやって来ていたのだった。防護服姿で。
「――あれは。帰りに僕の格好が目立つっていうから」
「だからって加速するならひとりで帰ればよかったでしょう」
それはそうなんだけど。
「それで、どうなったの?」
「抱っこされて加速されて、私だけが裸よ」
「まあ」
「ひどいわ」
「ね?ひどいでしょう」
「で、・・・加速を解いたとき、どうしたの」
「・・・ええ、それは――」
スリーがナインを見つめる。
ナインは怒っているのか、ぷいっとそっぽを向いた。
「私の部屋の前まで加速して、ドアを開けて加速を解いた途端、ひとをベッドの上に放り投げたのよ」
まるで荷物みたいに。
「それで?009は?」
「そのまま凄い勢いでドアを閉めて消えちゃったの」
「――酷いわね」
「でしょう?」
「ちゃんと言わなくちゃダメよ、スリー。そうじゃないとわからないんだから、009って」
そうしてそれぞれの009を軽く睨む003たち。
009たちはというと、それぞれ視線を合わせず勝手な方を向いている。
「――次の料理まだかな」
「ちょっとトイレ」
「次の酒はこれでいいかい」
「・・・・」
三人の口から小さなため息がもれた。
そういう細かいところへの気配りは殆どないけれど、それでもミッション中はどんなことをしても絶対に守ってくれる。
時には、それこそ荷物のようにぽいっと草むらに投げ込まれたりもする。
だから、彼にそう扱われるのは慣れているといえば慣れているし、まあいいかといえばまあいいかなと思うのだった。
しょうがないわ。
だって彼は「009」なんだもの。