子供部屋
(新ゼロなふたりの日常です)
4月16日 桜 (注:ちょっと暗いです)
「お花見しようと思っていたのに、気がついたらもう散っているのね…」 フランソワーズは残念そうにため息をついた。 「どうして忘れていたのかしら。お花見すること」 自分の胸の裡を覗いてみる。 ――しかし。 それはあくまでも心の表面だけの話であって、実際はどうなのか。 フランソワーズは自分の心の深い部分を覗こうとして――やめた。 もちろん、ひとは誰しも心の奥深くに闇を持っているものである。その深さはひとそれぞれだとしても、ひとは綺麗なものだけを持って生きているわけではない。ただそれを表面に浮かびあがらせることはせず、ただじっと奥にしまって遣り過ごしている。そうでなければ日々を過ごすことなんでできなくなってしまう。毎日、辛い思い出や黒い思いを噛み締めながら思い出しながら生きてゆくのなんて辛すぎる。 だから。 本当は自分が何を思いどう生きているのかなんて、わざわざ見なくてもいいのだ。 自分が人間ではなくなった日から。 ――このまま生きていてもいいの? 何も――何も、変わらないのに? 望んでも元の人間の姿に戻れるわけもなく、変われるわけもない。 だから。 毎年、同じように見えても、今年咲く花は去年の花とは違う。 だって、もしもそう思っていることを知られたら――知ったら、悲しむひとがいる。 だからそのひとには、いつも笑顔でいたい。笑顔だけ見せていたい。 フランソワーズはため息をつくとぎゅっと目をつむった。知らず、自分の肩を抱き締める。 どうにもならない自分の体。 もしも、あの時――ブラックゴーストから逃げる時に散っていたらどうだっただろう? 自分は散りたいのだろうか。 わからない。 自分はどうしたいのか。 本当は――どうありたいのか。 足元が崩れる感覚。 桜。 今年は――散り行く桜さえ、厭わしいと――
「…フランソワーズ。どうかした?」 ふっと影が差して、フランソワーズは目を開けた。 「具合でも悪い?」 手が伸ばされて、フランソワーズの額に触れる。冷たかった。 「…ううん。ちょっと考えごとをしていただけ」 ジョーはふいっと視線を逸らすと庭木を見つめた。 「今年は…別に、いいかな」 ジョーが目を細めて言う。 「わざわざ見に行かなくても…来年も咲くんだし」 でもジョー。今年の桜は今年しか見られないのよ。 胸が詰まる。 「――僕は」 ジョーがちらりとこちらを見た。 「桜を見るのはそれが目的じゃないから」 花より団子なのだろうかとフランソワーズが訝しく思った時。 「フランソワーズと一緒なら、それでいいよ」 今年咲いた桜だろうが去年の桜だろうがそんなものはどうでもいい。一緒に見るのが――隣にいるのがフランソワーズであれば。
ここにいて、いいんだ。 桜は何も悪くない。 だから。 フランソワーズは大きく深呼吸すると、ジョーの腕を抱き締めた。 「ね。全部散ってしまう前に見に行きましょう。…一緒に」 二人で見るのなら。 毎年違う花を咲かせる桜を、変わらない二人で見ることができるのなら。 「うん。一緒に行こうか」 このひとの笑顔と共にいられるのなら――
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