「素敵で優しいアイツ」
「熱愛疑惑う!?」 新聞を両手で握り締め、わなわなと震えるフランソワーズにジェットは腰を浮かせた。 「おい、落ち着けよ。アイツがそんな器用な真似できるわけないだろうが。ただの誤報だよ、うん。第一、お前さんがいるのに」 声と新聞が裂かれる音が重なった。 「嘘に決まってるじゃない、こんなの!」 そうして新聞を投げ捨てた。更に猛然と電話機に近付いてゆく。 「おい、一体何を」 子機を持って振り返ったフランソワーズの目には涙が滲んでいた。 「ジョーに対する侮辱よ!こんな全然知らない人と勝手なこと書かれて、まるで凄い浮気者か女好きみたいじゃないっ!」 小さく言うジェットの声は、もちろんフランソワーズの耳には届いていない。 「ジョーはそんなひとじゃないわ!すっごく大事にしてくれるのよ!」 ジェットは黙って天井を見つめた。
ジェットが持ち帰ったスポーツ新聞の1面にぶち抜きで載っていたのはハリケーン・ジョー。
端正な横顔のアップに「熱愛疑惑」の文字が躍っている。
そして、とあるモデルの名前と写真。
「当たり前でしょっ!」
「決まってるわ、抗議の電話よ!」
「抗議の電話、って」
「だって!」
「あ、ああ、怒るポイントはそっち・・・」
「はあ、それは何より・・・」
「昨夜だって、風邪ひくよってお腹に毛布をかけてくれたんだから!」
「・・・腹出してたのか?」
「そうよ、お腹出して寝ちゃってたの!」
「ああそう・・・」
「そんな素敵で優しいジョーなのに!」
「素敵で優しいジョー」が早く目をさまして降りてきてくれることを祈りながら。