「壊れた世界」
僕は荒野に立っていた。
文字通りの荒野だ。あとにもさきにも何も無い。
足元には白い灰が積もり、数十センチの深さとなってブーツを覆う。歩く度にめり込んでゆく感覚は、次第に僕の気を滅入らせた。
ただでさえ明るい気持ちにはなれないのに。
「ジョー。これからどうするの」
「――さあな」
心細げなフランソワーズにそっけなく返し、僕は空を見た。
白くどんよりとしている。
青空を見なくなって久しいが、いつまでも慣れない。
「ジョーったら」
少し苛立ったように繋いだ手を前後に振られた。
「だから言ったじゃない。しょうがないひと」
いやまったく、返す言葉もない。ないから僕は空を見続けた。
世界が破壊されて数日が経っていた。
一年前から予測されていたので、人々は地下シェルターに避難し殆んどの人が無事だった。
僕たちは逃げ遅れて地上にいる人がいないかと捜索にかりだされており、それも三日目に入っていた。
今のところ、生存者も遺体もみつかってはいない。
腹が鳴った。
「ジョー?お空を見ていても何も降ってはこないのよ?」
僕は、いま鳴ったのは僕の腹じゃなくてどこか別の誰かの腹のように装った。
天下のゼロゼロスリーを欺けるはずもないのだが。
「困ったわね……」
溜め息と呆れた声。次いで何かを取り出す音。
「これでも食べて我慢して」
口につっこまれたのはチュッパチャプスだった。
さすがゼロゼロスリー。
僕は僅かな糖分にすっかり元気を取り戻した。
「よし、行こう」
「ジョーったら」
見るとゼロゼロスリーもチュッパチャプスをくわえていた。
「それ、何味」
「ストロベリーミルク」
「味見させて」
「やあよ」
「そっちがよかった」
「ジョーのは大好きなコーラでしょ」
「ストロベリーミルクの方が好きになった」
「わがまま言わないの」
「ひとくち」
「だめ」
「これと交換」
「いりません」
どうにかしてストロベリーミルクを味わえないかと、僕は新たな課題の検討に入った。
世界は壊れてしまったけれど、きっと未来は明るいだろう。
糖質のちからは偉大だった。