「ある女の子の日記より」
迷子の子犬のような目をしていた。
でも、何を与えても満足しなかった。
与えるものはこれじゃない。
そうわかったけれど、だからといって何を求められているのかもわからなかった。
ただ飢えたような瞳だけが印象的で――どうにかしてこの飢えを満たしてあげたいとそればかり考えていたように思う。
もうずいぶん昔の話だけど。
そんなことを思い出したのは、ある雨の日に街角で似たひとを見たからだ。
とてもよく似たひと。
呼ばれていた名前も同じだった。
でも、きっと別人。
だって、そのひとはもう迷子の子犬ではなかったから。
欲しいものを知っていて、それをちゃんと与えられた幸せな飼い犬だった。
傘の陰から覗き見たその瞳に飢えはなかった。
隣の誰かと楽しそうにウインドウを指差し笑い合っていた。
薔薇色の頬をした横顔。
だから、きっと別人。
ジョーと呼ばれたひと。
昔のひと。
今はきっと幸せなのだろう。
少し、安心した。
良かったね。
迷子の――ジョー。