「リビングでソレは禁止」
  「ダメよ、ジョーったら。……優しくして」 所在無げな様子にフランソワーズはきょとんと首を傾げた。 「いや、ホラ。なんていうかその、妙な会話が聞こえてきたから入っていいものかどうかと……」 ごにょごにょと語尾を濁すピュンマにフランソワーズはきょとんとした視線を返すのみ。 「だから言っただろ。いくらアイツらでもリビングではしねーって」 ハインリヒがジェットの尻をつねった。 が、ジョーは。 「ん?どうかした?」  
   
       
          
   
         ―1―
         「してるよ」
         「してないわ。ホラ、そんな急に奥まで……いたっ」
         「ゴメン」
         「もう、早く抜いて頂戴」
         「うん。でも、角度を変えてみたらいいかもしれない」
         「ええっ、……いいわ、やってみて」
         「……どうかな?」
         「痛いわジョー」
         「え。ご、ごめん」
         「もうっ、下手くそね。替わって」
         身体を起こしたフランソワーズが目にしたのは、リビングの入り口付近に一団となっている仲間の姿。
         「みんな、どうしたの」
         「どうした、って……なぁ」
         「あ、ああ……」
         「それを言ったのは僕だろジェット。面白いから見てやろうって言ったのは君のほう」
         「な。言ってないぞ。それにだな、もし言ったとしてもリビングっていう公共の場でおっぱじめるほうが悪い」
         「――言葉を選べ。女性の前だぞ」
         彼らの会話の意味が通じてきたのか、フランソワーズは頬を染めると下を向いてしまった。
         右手には耳かきが握られていた。
 
  「……あっ、そこ、気持ちいい……」 おほんと咳払いして気まずそうに語尾を濁すピュンマ。 「だから、前にも言ったろ?もし公共の場でおっぱじめやがったら見てやろうって」 ハインリヒが肩を竦めてみせる。 「リビングでの耳かき禁止令も出しとくかい?」 ピュンマのどこか楽しそうな声にジョーとフランソワーズ以外が賛同した。 「――それに、そうしておかないと」 いつか本当にそうしている場面に遭遇しないとも限らないしな――三度目の正直という諺もあるし。  
   
 
       
          
   
         ―2―
         「でしょう?」
         「ウン……上達したね、フランソワーズ」
         「ま。私は初めから上手よ?」
         「そんなこと言っちゃうんだ?……でもそれって自慢になるのかな」
         「なるわよ。――ほら、これはどう?」
         「う、気持ちいっ……」
         ウフフと満足そうに笑ったフランソワーズが顔を上げると、リビングの入り口付近に所在なげに固まっている仲間が見えた。
         「あら。何してるの?」
         「何って……」
         「いや、今度こそほんとに――その、」
         そんな彼を肩で押し退けて、不機嫌そうにジェットが入って来た。
         「ジェット。女性の前だぞ」
         「フン。まぎらわしーことやらかしてるほうが悪いってんだ。おかげで誰も部屋に入れん」
         「――まぁ、確かにな」
         フランソワーズは彼らの会話から、はっとして手元を見つめた。
         彼女が握り締めていたのは耳かきであった。
         そしてその膝に頭をのせて寝そべり、気持ちよさげに目を閉じているのはジョーである。
         ギルモア邸での規則がひとつ追加された瞬間だった。