「――ン。何・・・?」

ジョーののんびりした声がした。
けれども、次の瞬間。

「フランソワーズ!?一体、どうし」
「なんでもないの」
「なんでもなくないだろう?――こんなに泣いて」
「ちょっと考え事をしてただけよ」

もしジョーに恋人がいたら?なんて考えていたなんて、とてもじゃないけど言えない。
しかも、そんな空想をしていたら辛くなって悲しくなって、泣いてしまったなんて絶対に言えない。
だって。
絶対、呆れられる。

「フランソワーズ。こっち見て」

私の膝枕で眠っていたジョーが身体を起こし、両手で私の頬を包む。
おでこをくっつけるくらい近付いて。
ジョーのほっぺたにはいくつかの水滴が流れていて――おそらく、さっきまでの私の涙だと思う。
ぽろぽろ泣いて、ジョーの顔の上に降った。
思えば、それのせいでジョーが起きてしまったのだった。

「言ってごらん?」

言えない。

「ほら。――フランソワーズ?」

言えない。

・・・でも。

「・・・ねぇ、ジョー?」
「なに?」
「・・・ジョーの好きなひとって誰?」
「フランソワーズ」
「毎日会っていても飽きない?」
「飽きないね」
「たくさん一緒にいても足りない?」
「足りないな」
「元気のミナモト?」
「そうだね」
「私に好きなひとができたら応援する?」
「するもんか」
「じゃあ、・・・好きなひとがいたらどうする?」
「それ、俺だろ?」
「わかんない」
「俺以外で、ってコト?」
「うん」
「コロス」
「・・・コロシちゃうんだ」
「もしくはこの世から社会的にも肉体的にも抹殺する」
「同じ事じゃない」
「だって許せない」
「そんな事したら、私きっと泣くと思うけど?」
「――今も泣いてるじゃないか」
「それとコレとは別よ」

そう言ったら。

がつっ。

「・・・ったーい!何するのよジョー!」

ジョーの頭突きが額に炸裂した。

「フン。あんまりわからない事を言うからだ」

そうして、私のおでこにキスをして。

「――好きなヤツでもできたのかい?」

え?

思わず見つめた褐色の瞳は――

・・・そっか。
今の話の流れだと・・・私に、他に好きなひとができたのかもしれないということになるかもしれない。

「――どうしてジョーが痛そうな顔をするの。おでこが痛いのは私よ?」
ジョーの頭突きを受けたんだから。

「好きなヤツができたのかできないのかどっちだよ?」
「ジョー以外に?」
「ああ」
「いません」
「本当に?」
「ええ。目の前にいるひと以外は見えないわ」
「フン。どうだかな。――目の前にいるのは誰だ?」
「ジョーよ」

そうして、やっと――微かに笑った。
辛そうに。

「ジョー?どうしたの?」
「・・・・」
「どこか痛いの?」

答えない。

「ヤダ。一体どうし」

ぎゅーっと抱き締められた。

「――頼むから。・・・もう、ヘンな事を言い出すのはやめてくれよ」

ジョーの胸に押し付けられる。

「フランソワーズ、俺をコロス気?」
「えっ」
「・・・心臓がイタイ」
「ええっ」

やだ、どうしよう?
まず博士に連絡して、それから――

ジョーの胸から離れようとするけれども、離してもらえないどころか更に強い力で抱き締められる。

「でも――」

耳元に響くジョーの声。

「――こうしていれば治る」

私もジョーの背中に腕を回した。

「・・・ゴメンナサイ」

 

***

 

・・・もしも。

もしも、ジョーに恋人がいたら。

私が、彼の恋人ではなかったら。

 

 

私はきっと

 

 

この世界には、いない。