「内緒だよ。」
今年一番の冷え込みだったという。 ただ、それは「その日」に限った話ではないんだけどね。 でもそれを言ったらフランソワーズに怒られるから、 内緒だよ。
それは、ずいぶん後になって知ったこと。
何故なら、その日の僕は冷え込みなどとは無縁だったから。
その日は、暖かくてふわふわでいい匂いのする亜麻色のものが隣にいた。
だから、全然寒くなんてなかったし、凄く幸せだったんだ。
寒い朝はベッドから出たくない。 だって隣にはどんな暖房器具よりも暖かいひとがいるんだもの。 ジョーには内緒よ。
原子力熱で暖められる、なんて普通なら経験できないわよね。
でもね。
一緒にいると暖かいのは原子力のせいだけじゃない。
気持ちまで暖かくなるのは、一緒にいるのがジョーだから。
でも、それを言うと得意になるから、
寒くて目が覚めた。 隣にジョーがいないせいだ。 それに今、彼はここギルモア邸にいない。 ジョーは今、遠いところにいる。 私は伸びをするとベッドから抜け出した。 ジョーが隣にいない朝には慣れている。 でも。 ジョーがいない寂しさには慣れない。
一緒に暮らしているといっても、毎日一緒に寝ているわけじゃない。
F1の最終戦が行われる地に。