「あなたに夢中」

 

 

「っジョー!?びっくりしたわ」

 

レースのカーテンの向こう側。
突然の人影に私の心臓は全力疾走していた。
カーテンを除けて外に出ると、黄色いマフラーをなびかせた金色に近い栗色の髪の持ち主が目の前に現れた。


「ジョー?いったい、どう」

どうしたの、と問う前に私はきつく抱き締められていた。


「ん、ジョー、待って」


でも緩まない腕。
たぶん、次にくるのは・・・

 

「・・・」

 

一瞬、腕が緩んで彼の唇が何かを囁いたみたいだった。
が、聞き取れないままキス。
・・・恋人同士のキス。
深くて、熱くて、溶けそうな。


ジョー。

いったいどうしたの?

どうしてここにそんな姿で立っているの?


・・・という疑問は全てジョーの熱さに溶けて消えてしまった。

 


「ファンション!どうかしたのか!」


遅れて兄がやってきた。ただならぬ気配を察したのだろう。

「うわっ、お前誰と何やって・・・っと、もしかしてジョーか?」

もしかしなくてもジョーなのよ。
ともかくお兄ちゃん。可愛い妹を心配する気持はじゅうぶんわかったから、二人きりにしてもらえる?

「ベランダから侵入するなど、ストーカー行為だぞ!」

だって、ストーカーだもの。しょうがないでしょ?


この間、当のジョーはどうしていたのかというと。


・・・何にも聞こえてないみたい。
ただ夢中で。

目を開けてみたら、一心不乱なジョーが見えて嬉しくなった。
だって私に夢中なんだもの。

・・・可愛い。


ジョーの後頭部に手をかけて抱き寄せるようにして、私は彼に思いを返す。
私もあなたに夢中よ、って。

 

 

***

 

 

「・・・急に会いたくなって。気が付いたらここにいた」
「・・・そうなの」


私はジョーの髪を撫でる。


「でもびっくりしたわ」
「・・・ゴメン」
「ううん、いいのよ」


落ち込んでゆくジョーにストップをかけるべく彼の額にキスをした。
膝枕のジョーは、私の腰に腕を回したまま動かない。


「・・・どうしたのって訊かないんだ?」
「ええ。いいわ」
「・・・」
「訊いて欲しいの?」
「あ・・・いや」


だって、いったいどうしたのかなんて顔を見ればわかるし、それに。


「いいの。私も会いたかったから」

 


遠征先からどうやってパリに来たのかなんて、そんなことは些細なこと。

だって愛し合う二人に距離なんて関係ないもの。


ね?ジョー。