「ワールドカップ観戦」

 

 

「フランソワーズ。起きて」


小さな声が闇のなかに響く。
フランソワーズは小さく唸ると体の向きを変えた。
が、どちらを向くにしてもジョーの腕のなかなのは同じだったから、窮屈なことこの上ない。


「フランソワーズ」


ジョーがフランソワーズの髪に鼻をすりよせる。小さくキスをして。

「起きようよ。ほら。始まるよ」
「ん・・・」
「一緒に見るって言ってただろ?」
「・・・ん」


フランソワーズは目を開けて、目の前のジョーにキスをねだるように少し唇を尖らせた。


「しょうがないなあ」


ちゅ、とキスするとジョーは体を起こした。


「さあ。急いで」
「ん・・・」

 

夜中の3時。
日本チームの予選リーグ突破をかけた試合が始まる。

いそいそと起き出すジョーに、こういう時は自分で起きるのね。とは言わず、こんなちょっとしたキスなんて手抜きだわ、と少しだけ膨れるフランソワーズだった。

 




 

 

「おはよう。・・・あれっ?」


いつものように朝7時にリビングにやって来たピュンマは、大画面テレビがつけっぱなしなことに眉をひそめた。


「ダメだなあ、全然エコじゃない」


溜め息ついて頭を振って。
ともかくテレビを消そうとリモコンを探した。


「ジョーのヤツ。サッカー観たあとはちゃんと消せってあれほど言ったのに・・・うわっ」


ソファの前のテーブルの上にリモコンはあった。
が、ピュンマはもはやリモコンなんぞどうでもよくなってしまった。


「・・・ふぅむ」


顎に手を遣りしばし考えて。
そうしておもむろに携帯で写真を撮った。

 

 

その日の夕方。


「ちょっと、何よこれ、いやーん」

「えっ、ちょっと何だよこれっ」


二人揃って送られてきたメールを覗き、二人揃って頬を赤らめた。
送信元はピュンマである。


「プライバシーの侵害だっ」

「でもこれ、たぶんリビングよ・・・」


フランソワーズの声は消え入りそうだった。

携帯画面に表示されているのは、ぴったりとジョーの胸によりそって眠るフランソワーズとそのフランソワーズにしっかり腕を回して眠るジョーの姿だった。

添えられていたメッセージは


『自分の部屋で寝ろ』


だった。


二人は揃って肩を落とし、はいそうしますと静かに呟いた。