93小話 「子供部屋」からこぼれた小話です。
「熱帯夜」 「・・・暑い」 夜中に目が覚めた。あまりの暑さにとても眠っていられなくなったのだった。 ・・・なんで暑くないんだろう? そうっと身体に触ってみる。 「・・・フランソワーズ」 小さい声で言う。 「・・・ごめん。ちょっと離れようよ」 エアコンは小さな稼動音を奏でているものの、エコ設定温度なのでそれほど冷えているわけではない室内。 自分の胸に回されている腕をそうっと外し、それから首筋に張り付いている彼女の髪を解き、彼女の頭の下から自分の腕を抜く。なるべく起こさないようにそうっと。 が、しかし。 「ヤダ」 声とともにジョーの胸に摺り寄せられる頬。 「・・・フランソワーズ。暑くないの?」 あくまでも目は開けず、眠ったまま頷くフランソワーズ。 「だって汗かいてるよ?」 僕は暑いの苦手なんだよ。と言い掛けたところで、フランソワーズがぱっちりと目を開けた。 「・・・わかったわ。そんなに言うなら、部屋に戻る。そして――」 暗闇の中できらりと光る蒼い瞳。 「もう二度とここへは来ません」 そうしてするりとベッドから降り―― 「ち、ちょっと待った。――フランソワーズ!」 ジョーは彼女を胸に抱き締めた。 「・・・頼むよ。僕はひとりじゃ眠れない」 「二人でも眠れないんでしょう?暑くて」 とりあえず、同じベッドで数センチ離れて眠ることにしたフランソワーズだった。 が、結局は・・・ 数センチの隙間でも、何よりジョーが不安がるので、やっぱりぴったりくっついて眠るのだった。 熱帯夜は終わらない。
(2008/8/31up)
全身に汗をかいている。シーツも枕も自分の汗を吸ってじっとりと湿っている。
上半身に何も着ていなくても、熱帯夜から逃れることはできなかった。
しかも。
自分の首筋に巻きついているのは――亜麻色の髪だった。
汗でべっとりと張り付いている。
が、そもそもの熱源はどうやらその髪の持ち主のようでもあった。
自分の胸にぴったりと寄り添い眠っている。
ひんやりと――しているはずもなく、やはりジョー同様に熱いのだった。
他人の体温によって体感温度は簡単に上昇してゆく。
「ウン」
「平気」
「・・・でもさ」
「イヤ」
「フランソワーズ。頼むよ」
ついでに身体も起こしてしまう。
ぐいっと腕を掴む。
「なーに?」
「二度と来ないって、そんな」
「だって、一緒に寝ると暑くて眠れないんでしょう?だったら別々に寝るしかないじゃない」
「そ。そんなこと言ってないだろ」
「言ったじゃない。離れよう、って」
「・・・それは、そういう意味じゃなくて・・・」
ほんとだよ?だから行かないでよフランソワーズ。
「・・・我慢するよ」
「アラ。我慢できなくて起きちゃったくせに」
「・・・今度からは起きないように気をつける」
「気をつける、って・・・もう。――ばかね」