プロローグ
「ねえ、見て!海が綺麗」 「本当ね。でも私はおなかがすいたわ」 「もう、さっきからそればっかりね」 「でも私もおなかがすいちゃったし、そろそろお昼にしましょうよ」 「そうね。予約の時間にはまだ早いけれど、歩いていけばちょうどいい時間になりそうよ」 賑やかに笑い合いながら進む金髪碧眼の女性たち。 総勢5名のその団体は――
「女だけで旅行?」 ナインは読んでいた雑誌を脇に放り出すと立ち上がった。 「駄目だ駄目だそんなの」 「あら、どうして?」 「危険だ」 「大丈夫よ。だって行くのは…」 「それでも駄目だっ!」 「ジョーったら。そんな怖い顔しても駄目よ。もう決めちゃったんだから」 スリーはにっこり笑った。
「へぇ…旅行か。いいな。どこに行くんだい?」 「イタリアよ」 「イタリア?」 「ええ。楽しいわ。どうして?」 「どうして、って…」 「え?何か言った?」 「ええ。お土産期待しててね」 「ウン…」 携帯電話を畳みながら、ジョーは首を傾げた。
超銀ジョーは笑顔を引っ込め眉間に皺を寄せた。
「…きみ、それって楽しいのかい?」
それってフランスからそう遠くないし、そもそも――
「…海外旅行なら日本にすればいいのに」
思わず呟いた声に反応され、ジョーは軽く首を振った。
「何も。…気をつけて」
お土産。
それってイタリアから日本に来るってことなのだろうか。
「ふうん。行ってくればいいよ。こっちは僕がなんとかしておくからさ」 思いやり深い言葉をくれた原作ジョーにフランソワーズはそれでも心配そうだった。 何しろ日本を離れるのである。それも一週間。 彼に、老人と子供の世話ができるだろうか。 「でも…やっぱり断ったほうがいいかしら」 「いいよ、大丈夫だって。ほら、いざとなったら張大人もいるしグレートだって」 「そうだけど…」 留守の間に何か起こりはしないか、あるいは何かしでかしはしないかと 留守宅より目の前の人物そのものが心配なフランソワーズであった。
「いいなぁ。僕も行きたいな」 準備をするフランソワーズの後にくっついて不満そうなのは平ゼロジョーである。 くるりと振り返ったフランソワーズに笑顔で言われ、ジョーはちょっと黙った。 「…行かないよ」 拗ねたようなその口調にフランソワーズの笑顔がはじける。 「うるさいなあ」 「だったらおとなしくお留守番してるのね」 「…するけどさ。僕が言っているのは寂しいからじゃなくて、心配だからで」 「はいはい、気をつけまーす」
「じゃあ、ジョーも行く?」
「そうよねぇ。寂しくなってついてきちゃったなーんてかっこ悪くて言えないわよねぇ」
「行ってもいい?」 「うん」 「…どうして即答なの?」 「えっ?」 「そうだけど」 「だから、どうぞ、って」 「そりゃ心配だけどさー…」 「じゃあ、行くな」 するとフランソワーズは更に膨れた。 「私のこと、信じてないの?」 それを聞くと、ジョーは脱力した。 「…信じてるよ、だからさっき行ってもいいよって言ったんじゃないか」 メンドクサイなあと呟いた時、頬をつねられた。
咎めるような視線と言葉に新ゼロジョーは数回瞬きした。
「だって、行きたいんだろう?」
膨れた頬を隠そうとせず、フランソワーズはじっとジョーを見た。
「…ジョーは心配じゃないの?」
ジョーもフランソワーズを見る。
ううむとひとつ唸ってから、言ってみる。
――その団体は 003御一行。 もちろん、009抜きの海外旅行であった。