旅先にて
〜ホテルで〜

 

 

もう苦しくて食べられないと言いつつ、なんとか完食した003一行。
食事の後は景色を見ながらあれこれはしゃぎつつ、ゆっくりとホテルに戻った。

海に面する部屋に落ち着いて、それぞれゆったりとくつろいだ。


「――綺麗ねぇ」


バルコニーに出ている超銀フランソワーズが呟く。
その髪を海風が優しく撫でてゆく。


「本当。来てよかったわ」


隣にやって来たのは新ゼロフランソワーズである。
しばし並んで無言で景色を眺める。


「――そういえば」

思い出したように新ゼロフランソワーズが言う。

「大変じゃなかった?出かける時」
「えっ?」

海の手前の街並みを眺めていた超銀フランソワーズが視線を新ゼロフランソワーズに向ける。

「大変って?」
「ジョー」
「……別に、そんなことなかったわ」

昼ごはんを食べながらそういう話になったのであった。
それぞれ、ジョーがごねて大変だったという話で盛り上がったのだが。

「私たちは遠距離だから、いつもと同じだもの」

ふふっと笑う。

「そう。……こちらも同じ」
「えっ?だって一緒に住んでいるんでしょう」
「そうだけど、もう慣れちゃってるから」

あっさりと行ってもいいよと言われたのだ。

「笑顔で送り出してくれたわ」
「ふうん。信用されてるのね」
「さあ。――どうかしら」

私なんてどうでもいいのかもしれない――とは思わないが、なんだかちょっと寂しかった。
特に他の003たちが難儀していた話を聞いた後では。

「――いいじゃない。スリーや他の二人を見てみなさいよ。それこそ、贅沢な悩みってものよ」
「そうかもしれないけど…」
「だったらどんな答えが正解だったの?」
「それは――」

それは当のフランソワーズにもわからないのだ。
だから余計に困るし、――なんだか腹もたつ。


「――いいじゃない、信用されてる証拠よ」


いっぽうの超銀フランソワーズは少し尖った声で言った。一瞬、自分が叱られているのかと目を見開いた新ゼロフランソワーズであったが、すぐにそうではないと気がついた。
超銀フランソワーズはどこか一点を見つめたまま己に言っているようだったのだ。


「…私なんて全然信用がないんだもの」

 

 

 

 

「いいなあとは言ってたけど別に興味はないみたいだったわ」


部屋でお茶を淹れた原作フランソワーズはあとの二人にカップを渡すと自分もソファに腰掛けた。


「お土産を何にしようか考えているところよ」
「平和ね。うらやましいわ」

思い出したように怒り出したのはスリーであった。

「ナインったら、ひとを子供扱いしてばっかり!いつもいつもいつも」
「まあまあ。それだって大事に思っているからよ」
「それにしても過保護よ。私だっていつまでも子供じゃないんだから!」
「まぁ、確かに過保護かなって思わなくもないけど」

でも子供扱いする気持ちはちょっとわかるかも――と平ゼロフランソワーズは思ったけれど胸の中に留めた。

「うちはジョーが子供だから」
「あら、そんなことないでしょう。意外と大人じゃないかと思うけど?」

笑いを含んだ声で原作フランソワーズが言う。

「あなたが勝手に子供扱いしてしまっているだけじゃないのかしら」
「えっ…」

なんだか鋭いことを言われ、平ゼロフランソワーズはカップを置いた。

「…そうかしら」
「そうよ。年齢のこと、気にし過ぎだと思うわ」
「…でも。私が年上なのは本当のことだし」
「でも眠っていた期間に知識や経験が増えたわけじゃないでしょう。眠る前となにか違っていて?」
「――それは」
「だったらそれは、年齢と共に成長したわけじゃないんだから、年上っていうのとは違うと思うわ。あなたにジョーよりもずうっと多くの経験があるのならともかく。眠る前の十数年の知識と経験しかないのなら今の彼とどのくらい何の差があるっていうの?」
「――そう、だけど」
「だったら気にすることないわ。甘えちゃえばいいのよ」


甘える。

ジョーに。


できるのだろうか。そんなことが。

何の憂いもなく。

普通のカップルのように。


「…あなたたちはそうしているの?」


逆に聞き返され、原作フランソワーズはお茶にむせた。

「えっ?」
「聞きたいわ。どうすれば甘えられるのか」
「そっ――」

原作フランソワーズの頬が染まる。
改めて訊かれると返答に困るのだった。

何しろ、原作ジョーは――


「…はっきりしないひとだから、参考にならないと思うわ」


自分で考えなさいとうまく逃げた原作フランソワーズであった。