原作「偶然?」
夕方になって、少し散歩をしてくるわと平ゼロフランソワーズと共に外出した原作フランソワーズ。
あれこれ話しながら、土産物店をひやかしつつ進んでいたところふと足を止めた。
「ん?どうかした?」
「ううん。ちょっと気になるものがあったから――先に行ってて」
「わかったわ」
平ゼロフランソワーズに軽く手を振り見送ると、原作フランソワーズはくるりと向きを変えて数メートル先の広場へ進んだ。
「――ここで何をしているの?」
問いかけた先にいたのは、褐色の髪と瞳を持った涼しげな顔の青年。
「うん?…あれっ。フランソワーズじゃないか」
「フランソワーズじゃないか、じゃないわ。どうしてここにいるの?」
「やあ。偶然だね」
「偶然、って…」
悪びれず鷹揚に微笑む相手にフランソワーズは眉間に皺を寄せた。
「偶然じゃないでしょう。どうしてついて来るの」
「ついてなんか来てないよ、人聞きの悪いこと言うなよ」
「だって。――じゃあ、いったい何なの?」
「何って…調査」
「調査?何の?」
「ポンペイの秘密」
「…ポンペイ?」
「ああ。きみが出かけた後すぐに依頼がきたんだ。とある研究所からなんだけど、イタリアのポンペイについて調べて欲しいと」
ジョーの語るところによると、ポンペイ遺跡とベスピオ火山の爆発について調査して欲しいとそういう依頼のようだった。
確かに、これらは未だ解明されていない部分が多く謎も多い。
しかも、発掘調査においても有毒ガスの有無もわからず迂闊に進められないという。
危険を伴う調査の依頼を受けることは珍しくない。
「――そうなの。知らなかったわ。でも…」
フランソワーズはジョーの説明に納得したものの、ちょっと首をかしげ周囲を見回した。
「ジョーひとり?」
「うん」
「日本に博士とイワンを置いてきたの?」
あれだけ世話を頼んだのに、と柳眉を逆立てる寸前、ジョーがのんびりと言った。
「大人とグレートが見てくれるって言ってたからさ、大丈夫だよ」
「それにしても…」
約束したのだから、自分が帰国するまで依頼を受けるのを待っていてくれればいいのにという思いは消えない。
「いやぁ、きみもイタリアにいるし、ちょうどいいかなって」
「ちょうどいい、って…ちょっと、もしかして私も調査に同行しろってこと?いやよ、せっかくの女子会なのに」
「うん。きみはきみで楽しんだらいいよ。そんなに難しい調査じゃないし僕ひとりでじゅうぶんさ」
「…そう」
そう言われると、それはそれで何だか寂しい。
今までそういう遺跡の類の調査は一緒にやってきたのに。
そんなフランソワーズの複雑な表情に気付いたのか、ジョーは笑顔で言った。
「きみはしばらくこの辺にいるんだろう?調査の報告くらいなら適時するけど?」
「……」
ジョーに会うのは嬉しい。
が、今は旅行中なのだ。それも「009抜き」の。
「…ううん。帰ってから聞くわ。だからあなたはあなたの仕事に専念して頂戴」
「そうか。わかった」
「じゃあ、私行くわ。ちょうどお土産を買っていたところなの」
「ふうん。僕のも?」
「…あなた、いまここに来ているのにお土産が欲しいの?」
「うん。それとこれとは別」
「…わかったわ」
じゃあねと手を振って、フランソワーズは先ほどの店に戻って行った。
ジョーはその後ろ姿を見送りつつ微笑んだ。
まったく、フランソワーズは素直だなあと思いながら。