超銀「嫉妬」
海外旅行をするなら日本に来ればいいのに。
そう何度も言いかけたけれど、はっきりと伝えることはできなかった。
こんな時、ジョーは自分はなんていくじなしなのだろうと思う。
全く、フランソワーズの言う通りだった。
「…イタリアか」
イタリア。
遠い地ではあるけれど、F1パイロットのジョーにとって見知らぬ土地というわけではない。
が、もちろん、彼女たちが彼の知っている街に行くのかどうかは知らない。
「…大丈夫かな」
ちょっと心配してみる。
が、すぐに自分のフランソワーズなら大丈夫だろうと納得する。
他の003はどうか知らないが、自分の003は大抵自力でなんとかしてしまうのだ。
なんとか出来なくてもやってしまう。
例え、これは無理だと009の心が折れそうになったとしても、それでも――なんとかしてしまうのだ。
そんな彼女にこれまでどれだけ支えられてきただろうか。
だから、心配は無用だと思った。
と、いうよりも。
いまジョーの心を占めているのは、フランソワーズの身の安全などよりもっと別のものだった。
――どうして日本じゃなくイタリアなんだ。
嫉妬であった。
わざわざ旅行するというのなら、フランスから近い土地を選ぶより日本を選ぶべきだろう。
何しろそこには恋人がいるのだから。
日本にすればついでに会うことだってできるではないか。
なのに、どうして日本にしないんだ。
ジョーにとってフランソワーズはあくまでもフランスに住んでおり、他の009と003は日本にいたりするということは全く頭になかった。
彼にとってそんなことはどうでもいいことである。
それとも。
まさかイタリアに誰か思う男でもいるのか――?
フランソワーズが聞いたら激怒しそうな問いである。
おそらく、冷たく「そう思うならそうなんでしょう」と言われるだろう。
しかし、いまここに彼女はいない。
いないから、ジョーの暴走を止めるひともいなかった。
「――許さないよ、フランソワーズ。僕に黙ってそんなこと」