超銀「嫉妬」A
ホテルのバルコニーで新ゼロフランソワーズと話しながら、超銀フランソワーズはうんざりしていた。
と言うと、新ゼロフランソワーズと話していることがうんざりかのように取れるが実はそうではない。
うんざりしているのは別のことである。
だから、極力、彼女との会話に集中したいところであった。が、そうもいかないのが悲しいところである。
眼下の街並みに視線を向け続け、フランソワーズは内心ため息の連発だった。
改めて自分の能力を恨めしく思う。
こんな――千里眼などなければ、よほど平和に暮らせたのに。
そう思っても仕方のないことだとわかっているけれど、それでもこういうことがあると強く願ってしまう。
見えなければどんなにいいのだろうか、と。
思えば、最初からずっとだったような気がする。
飛行機から降りたときも。
空港からバスに乗ったときも。
ナポリに着いたときも。
ピザの店に入ったときも。
そして、今も。
いつ気付いたのか自分でもわからない。
最初は気のせいだと思っていたのだ。
つい彼のことを考えてしまうばかりの自分に苦笑したりもした。
だからそのせいで幻覚を見てしまうのか、あるいはみんな彼に似たひとに見えてしまうのだろうと。
いったい自分はどれだけジョーのことが好きなのだろう。
女子だけの旅行のはずなのに、まさかこんな風に彼への気持ちを再確認することになるとは思ってもいなかった。
とはいえ。
だからといって、それとこれとは違うような気がする。
しかし、今までの彼とのことを思い返してみると、それはそれで可能性としてはあってもおかしくないと結論した。
いやむしろ――想定できてしかるべきだったというところか。
フランソワーズはいま一度、街並みを見つめた。
その一角を凝視すると難なくズームアップされた景色が見えた。
金色に近い栗色の髪。
褐色の瞳。
異国の地にも難なく溶け込んでしまうその姿。
すれ違うイタリア娘にちょっと振り返っていたのに少し胸の奥がもやっとした。
――ほんとに、もう。
どうしてここにいるの?