平ゼロ「不安」

 

 

原作フランソワーズと共に外出した平ゼロフランソワーズであったが、心は全くの上の空であった。
表面上は、楽しくあれも綺麗ねこれも可愛いわと土産物を物色していたものの、意識は別の方へ向いてしまう。
昼間、原作フランソワーズに言われたことが気になっていた。

 

――あなたが子供扱いしているからじゃない?

 

子供扱いしてる?私が――ジョーを?

 

有り得ない、とフランソワーズは心のなかで首を横に振る。
自分では特別そうしているつもりはないのだ。

それに。

自分が彼より数十年前に生まれたのは事実なのだし。


ともすればため息をつきそうになるのを笑顔で隠し、ともかく、この旅行は楽しもうと心に決める。
せっかくのお出掛けなのだ。しかも任務以外での海外旅行。それも003という仲間同士での。
楽しくないわけがないし、楽しまなくては損である。


――そうよ。ジョーのことなんか考えてる場合じゃないわ。


頭の隅に彼のことを押し遣って、次の店に向かう。と、向かいかけたところで原作フランソワーズからちょっと用事があると言われた。用事ってなんだろう日本へ電話かしら――と思いつつ、笑顔で手を振り自分ひとりで店に入ることにした。

 

 

***

 

 

――これってジョーに似合いそうだわ。


しかし、およそファッションに無頓着な彼である。イタリア製といっても何もわからないだろう。
まさしく猫に小判である。
フランソワーズはため息をつくとシャツを置いた。

…着る物はやめたほうがいいわね。

いわゆるアクセサリー系統も駄目だろう。同じ理由でバッグや靴も。
となると、あとは――食べ物?

「…謎の置物とか」

口に出して言うとちょっと笑った。
意外とそういうものがいいのかもしれない。いかにも「お土産」といった風だし、ジョーも単純に喜ぶだろう。


「…単純だもの、ね」


ジョーというひとに出会ってからまだ日は浅い。
が、ひとと知り合うのに果たして日数は重要なのだろうか。
たった数日で深く知り合った上に、固い信頼という絆で結ばれてもいる。
そして――並々ならぬ好意を抱いてもいる。
たぶん、彼も。

同じサイボーグという境遇上、自分と彼とはこれからもずっと一緒に生きてゆくのだろう。

そのあたり、自分たちはいわゆる普通のカップルとは大きく異なっている。
いつか来る別れを恐れる必要性が無い。
だから、危うい一線というものがなく常に安心していられる。

それがいけないのかもしれない。

ジョーはいつも穏やかに笑って受け容れてくれる。
たぶん、愛情が深いのだろう。
フランソワーズがひとりで怒って泣いてもジョーはいつもと変わらない。
一緒になってパニックになったりなどしないのだ。
器が大きいといっていいだろうと思う。

しかし。

それが不満に思うこともある。
小心者の彼氏より、頼りになるひとのほうがいいに決まっている。が、たまには一緒にパニックになったりして欲しいと思うのはわがままなのだろうか。
フランソワーズは、ジョーがいつも泰然としているのは自分に対してそんなに興味がないからなのだろうと思えて仕方がなかった。
だからジョーは一緒にドキドキしたりはしてくれない。
それが悔しくもあり寂しくもあったから、だから――フランソワーズは更にその上をいくしかないのだ。
彼のお姉さん役をすることによって、あなたより一枚上なのよと。
そう余裕を持っているフリ。
だから必要以上に彼を子供扱いするしかないのだ。

本当は、全然そんなこと思っていないのに。