平ゼロ「不安」

 

 

「…心配だなぁ」


ぼうっと海を眺めながら、目を細めた。
声に出して言うことで、心配度が更に高まってしまったのだが当の本人は気付いていない。


「…強がってばっかりだからなぁ…」


小さくため息をついた。

 

フランソワーズが出かけてから一日が経った。
それはジョーにとって短くもあり長くもある一日であった。
出会った時からずっと一緒にいて、こうして離れるのは珍しいことである。
だから心配というのもあるが、要はただ一緒にいたいだけなのだ。
ジョー本人はそれにも気付いているのかどうか定かではない。傍から見れば、彼は飽かずにぼうっと海を見つめているだけの存在であった。


フランソワーズは気が強い。


それは周知の事実であり、メンバーの誰もが感じていることであった。

しかし。


――意外と泣き虫。

で、寂しがり。


心の中でジョーは挙げてゆく。

どうしてかフランソワーズはなかなか素直にならない。
否。
どうしてなのか――を、ジョーは知っているつもりだった。
それは、ジェットやハインリヒと話すときの彼女とそれ以外の者と話すときの彼女を比べてみればわかる。
どうやら一緒にコールドスリープをした相手には素直なようなのである。だからきっと、彼女はコールドスリープをしていない者との年齢差――世代の違いを気にしているのだろう。
必要以上におねえさんぶるのもきっとそれが理由。

ジョーとしては全く遺憾だった。
何しろ、フランソワーズが自分よりうんと年上だなんて全く実感がないし、実際にそう見えたりもしない。
わざとふざけておばあちゃんなんて言ってみたりもしないしする気もない。
だってジョーにとって彼女はおばあちゃんではないのだから。


…普通の女の子なのになぁ。


けれども自分と相対するときは、いつもわざとおねえさんぶる。
ジョーを子供扱いする。
それは不満だったけれど、それでも――それで彼女の気持ちがすむのならとそのまま好きにさせていた。が、フランソワーズにはそれももどかしいようで一向に素直になってはくれないのだった。


――ぎゅうっと抱き締めているときは静かなんだけど。


でもそれを言うと怒るから言えない。
今回の旅行にしても、ジョーはただ心配でそう言っただけなのに真面目にとりあってはくれなかったように思う。


…僕が、もっとしっかりしてフランソワーズを甘えさせられるような大きな男だったら。


だったら、いいのだろうか。


――それも違うような気がする。


そんなことじゃないのだ。たぶん。


「ああもう」


足元の空気を蹴ってみる。


とりあえず、今はそのことじゃなくて――003としての特性故の心配をしなければ。

003としての特性。

それは「敵に狙われやすい」ということであった。

どうしてそれが003としての特性になりうるのかというと、全ての根源は009にあった。つまり、009の恋人であるから狙われる。だから全ての009は003を守る義務があるし、責任もあるのであった。
もちろん、それだけの理由ではないとしても。


「うん――そうだよ。僕が心配したっていいじゃないか。だってきみは003なんだし、僕の…」