新ゼロ「心配?」

 

 

「あれっ、ジョー。どこかへ行くのかい?」


ガレージで整備をしていると背後から声をかけられた。
別に悪いことをしているわけではないのに、びくんと肩が揺れた。
それが気まずくて、ジョーは振り返らず整備を続けた。見なくてもわかる。この声の主はピュンマだ。


「…別にそういうわけじゃないよ」
「そうかな。久々だよ。ストレンジャーの陸地用以外のスタイルを見るの」
「……」

ジョーは黙った。

確かにピュンマの言う通りだった。

ネオブラックゴーストとの闘いが終わってから、ストレンジャーを飛ばしたり泳がせたりしたことはない。
いや――個人的な事情で時々はあったけれど、それでも滅多なことでは使用していないのだ。
だから、こうしてガレージでそういう整備をしているのは珍しいだろう。どこかへ行くのという問いが発せられても不思議ではない。そうわかってはいても、ジョーは途端に落ち着かなくなった。全てを見透かされているようで。とはいえピュンマにしてみれば、いまこの時にこのようにこれ見よがしに整備などされたら行き着く結論はひとつしかないのであったけれど。あったけれど、そこは武士の情け。


「――まぁ、整備は大事だよな。うん。いつ何が起こるともわからない」


そう曖昧に言う。
ジョーの隣に並んでちらりと様子を窺ってみるけれど、長い前髪が邪魔をして表情を見ることはできない。


「出かける時は声かけろよ。今日の食事当番は僕だからな」
「…ウン」


とはいえ。
無断外出はジョーの得意技である。最近ではめっきり発揮されなくなってはいるが。


――そろそろ出るかもしれないな。


ピュンマは内心にんまりして――黙々と整備を続けるジョーの肩に手を置いた。

 

 

***

 

 

ピュンマが去ってからしばらくして、ジョーは満足のため息とともに手を止めた。


これで完璧だ。


ほれぼれと愛車を眺める。
チューンも完璧なその車は、いつでもどこへでも行けるようだった。


どこへでも。


ぴかぴかの車体に映る自分の顔は、いつしかフランソワーズに変わっていた。
今頃はイタリアにいるだろう。4人の003と共に。

4人の003。

つまり。

003ゆえの危険度も更に倍になっているはず。相乗効果というものがあるとすれば。


――心配しすぎかな。


そこはいつも考えてしまうところだった。
003は狙われやすいとはいえ、自分の003は易々と攫われてしまうような女の子ではない。他の003はどうか知らないが、自分のフランソワーズはそのはずである。

が、しかし。

例えば一般人を人質に取られてしまったらその範疇ではない。
そこが引っかかるところであった。


いや、でも、今回は普通の旅行だ。


だからそんな危険なんてあるはずもない。
そうでなければ、行ってもいいよなんて言ったりはしない。


でも。


ジョーの脳裏に過去に攫われ捕えられた003の姿が幾つも浮かんでは消えた。


心配しすぎで何が悪い。
フランソワーズが何か痛い思いをしたり困ったりするのは絶対にイヤだ。


それに。


――心配してくれないの。


そう言った彼女は酷く寂しそうだったから。