旧ゼロ「喧嘩」

 

 

「旅行だって?なんだよそれ、いつ決めたんだよ」
「半年前かしら」
「半年前っ?聞いてないぞ」
「言ってないもの」
「なっ――」

ナインはソファから立ち上がった。

「なんだよ、それっ!」

握り締めた手が震える。

「だって、言ったら反対するでしょう」

対するスリーは涼しい顔でコーヒーを飲んでいる。

「当たり前だっ!女の子同士で旅行なんて許可できるもんかっ」
「…男の子と一緒ならいいの?」
「余計に駄目だっ!!」

やっぱりね、とスリーは肩をすくめた。

「そんなに怒らなくてもいいじゃない。大体、一緒に行くのは003なんだから」
「003?5人で行くのか」
「ええ。…ほら。安心したでしょう」
「――逆だっ!」

ナインは物凄い形相でスリーを睨むとくるりと踵を返し、リビングをぐるぐる歩き始めた。

「大丈夫よ。みんな普通の女の子じゃないんだし。百戦錬磨の戦士なんだから」
「普通の女の子だろっ!」
「違うわ。サイボーグなんだし」
「違う!普通の女の子だっ」

叫ぶように言うと、ナインはスリーの目の前にやってきた。

「いいかい?君は自覚していないようだけど、003にはある特性があるんだ。これは全員に共通している」
「特性?」

きょとんと問い返すのにナインは一瞬言葉に詰まった。
目を丸くして無防備にナインを見つめるスリーが凄く可愛くて、思わず怒っていることを忘れそうになった。
が、それも一瞬のことで、すぐに気を引き締めた。

「そうだ。003は攫われやすい」
「…それって別に特性じゃないと思う」
「いいや、そうだ。それも、僕たち009が駄目だと言っても聞き入れない結果、そうなっている」

そうだったかしら――?とスリーは首を捻った。

一概にそうは言えないような気もする。が、ナインには黙っていることにした。

「それを、イタリア旅行で浮かれてはしゃいでみろ。全員、あっという間にどこかに攫われてゆくぞ。そばに009がいないというのにな」
「……そんなの、行ってみなきゃわからないじゃない。もう、心配しすぎよジョー」
「ふん。他の003ならそうかもしれないけど、きみは違うからな」
「ま。何よそれ」
「きみは誰よりも子供だ。だから一番狙われやすいし隙がある」
「狙われるってどこの誰によ」
「そこらにいる色んな悪党どものことさ!」

何よそれ――と頬を膨らませたスリーだったが。

「…じゃあ、ジョーは私のこと信用してないのね」
「ああ、してないね。危なっかしくて放っておけるもんか。いつも僕の目の届くところにいないと駄目だ」
「そんなの横暴よ!」
「きみは子供なんだから当たり前だ!」
「子供子供って、どうしてそんなに子供扱いするの?」
「いいからきみは僕の言うことを聞いていればいいんだ!」
「何よそれっ」

スリーも立ち上がると、じっとナインを睨みつけた。

「じゃあ、私は何をするのでもあなたの許可をもらわなくちゃいけないっていうの?」
「当然だ。僕はリーダーだからな!」
「ジョーの横暴っ」
「フランソワーズのわからずやっ」

互いに一歩も引かず睨み合って。

そうして同時に視線を逸らせた。

「反対したって行きますからね!もう決めたんだから!!」
「勝手にしろっ。攫われたって助けになんか行かないからな!!」

 

 

 

そうやって喧嘩して出てきたのだった。

 

仲直りはまだしていない。