フランソワーズは公演初日のダメ出しがあるとかで、早々にレッスン室に戻って行った。 そんなキスひとつで機嫌を直す僕という恋人は、彼女にとっていったいどんな存在なのだろう。 僕はホテルまでの道を歩きながら、さっきまでのフランソワーズとの会話を反芻していた。
「まったくもう。連絡来ないのが辛いからって自分から電源を切っちゃうかしらふつう」 切ったんじゃないよ、勝手に電池が切れたんだ。 「じゃあどうして充電しないの。ほんっとにもう、手のかかるひと」 悪かったな。手のかかる恋人で。 「ずうっとついていなくちゃいけないの?メンドクサイひとなんだから」 メンドクサイほうがいいんだって前に言ってなかったっけ。 「実は泣いたりしてたんでしょう?泣き虫なんだから」 えっ、泣いてないよ今回は。 「あなたと連絡がつかなくて、どれだけ悲しくて辛かったかわかる?寂しいのが自分だけだなんて思わないでよね」 あんまり寂しかったからグレートに僕の動画を送ってもらって、大笑いしたそうだ。 「だって、定点観測かと思うくらい膝を抱えたまま動かないんだもの!」 そうしてふんわりと僕を抱き締めた。 「もうっ。どうして私がついてなくちゃダメになっちゃうの?」 そう言ってフランソワーズは僕の唇を塞いだのだった。
僕は歩くのをやめて、セーヌ河を見た。街頭の光が水面に反射している。 いや。 少しは変わったかもしれない。
――どうして私がついてないとダメなの?
僕はフランソワーズとの熱烈なキスを思い浮かべた。今ならちゃんと口に出せる。
ジョーこそ私の太陽よ
きっ聞かれてた!!! 僕は己の迂闊さに顔から火が出る思いだった。そうだった、彼女には全部聞こえてしまうんだ――思わずダッシュしていた。加速しながら。 ホテルに入るのにとっても苦労したのは言うまでも無い。
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