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フランソワーズは公演初日のダメ出しがあるとかで、早々にレッスン室に戻って行った。
明日も明後日も公演は続くのだ。今日よりもいいものをとレッスンするのは当然といえば当然のことなのだろう。日本から恋人が来ているからといって、自由になる時間などないのだ。……楽屋で熱烈なキスをする時間はあったけど。

そんなキスひとつで機嫌を直す僕という恋人は、彼女にとっていったいどんな存在なのだろう。

僕はホテルまでの道を歩きながら、さっきまでのフランソワーズとの会話を反芻していた。

 

「まったくもう。連絡来ないのが辛いからって自分から電源を切っちゃうかしらふつう」

切ったんじゃないよ、勝手に電池が切れたんだ。

「じゃあどうして充電しないの。ほんっとにもう、手のかかるひと」

悪かったな。手のかかる恋人で。

「ずうっとついていなくちゃいけないの?メンドクサイひとなんだから」

メンドクサイほうがいいんだって前に言ってなかったっけ。

「実は泣いたりしてたんでしょう?泣き虫なんだから」

えっ、泣いてないよ今回は。

「あなたと連絡がつかなくて、どれだけ悲しくて辛かったかわかる?寂しいのが自分だけだなんて思わないでよね」

あんまり寂しかったからグレートに僕の動画を送ってもらって、大笑いしたそうだ。

「だって、定点観測かと思うくらい膝を抱えたまま動かないんだもの!」

そうしてふんわりと僕を抱き締めた。

「もうっ。どうして私がついてなくちゃダメになっちゃうの?」

そう言ってフランソワーズは僕の唇を塞いだのだった。

 

 

僕は歩くのをやめて、セーヌ河を見た。街頭の光が水面に反射している。
こうしていると思い出す。ずうっと前、ここでじっとフランソワーズが来るのを待っていた夜を。
あの時は酷く不安だった。彼女はきっと来ると信じていたが、しかし僕と彼女の関係はとても曖昧だったのだ。
私たち、どう見えるかしらと頬を染めたフランソワーズに僕はどうって何がと質問返しで答えた。はっきり言える自信がなかった。恋人同士に決まっているだろう、と。
思えば、僕はあの頃と少しも変わっていないのかもしれない。

いや。

少しは変わったかもしれない。

 

――どうして私がついてないとダメなの?

 

僕はフランソワーズとの熱烈なキスを思い浮かべた。今ならちゃんと口に出せる。


「フランソワーズは僕の太陽だから、いなくなったら枯れちゃうんだよ」


なんだ口に出して言うくらい簡単じゃないか、やっぱり一ヶ月の音信不通に耐えただけのことはあるなと自分自身に感動していたら、数分後、携帯が振動した。届いたメールにはたったひとこと。

 

ジョーこそ私の太陽よ

 

きっ聞かれてた!!!

僕は己の迂闊さに顔から火が出る思いだった。そうだった、彼女には全部聞こえてしまうんだ――思わずダッシュしていた。加速しながら。

ホテルに入るのにとっても苦労したのは言うまでも無い。