雨の日は好きじゃない。
ジョーの様子が変わるから。
雨が嫌いなひと。
曇天になっただけで、いっそう無口になってしまう。
普段も饒舌とは縁のないひとだから、余計に困ってしまう。
だから雨の日は好きじゃない。
……好きじゃなかったのに。
「おおい、フランソワーズ。タオル持ってきてくれ」
ま。
命令形で言うなんて、たいしたものですこと。
でもいいわ。彼のこういう口調は時期限定だから、許してあげる。
私はタオルを手に玄関に向かった。
「まあ!」
照れたように笑うジョーは泥だらけだった。タオルどころの話じゃない。
「どうしたのよ」
「うん、まあ、つい」
悪びれず笑うジョー。
私はほっと息をつく。
まったくもう……雨の日は嫌いなんじゃなかったの?
なのにこんな嬉しそうな楽しそうな顔しちゃって。
「楽しかった?」
ジョーに訊いたはずが、答えは彼の足元から聞こえた。
「うん!」
「あなたも?」
改めてジョーに訊く。
「うん!」
同じように言われたから、笑ってしまった。
「いま着替えを持ってくるから待ってて。そしてすぐお風呂よ?」
彼を玄関に残し、急いで着替えを取りに行く。
まったくもう。
いったい誰が雨の日は嫌いですって?
どろんこ遊びを夢中でしてしまうくらい好きなんじゃないの。
どうやっても雨を好きにはならなかったジョー。
それをいとも簡単に雨好きに変えた彼女。
「もう……妬けちゃうわ」
だけど私も雨の日が嫌いじゃなくなりそう。
だってジョーの笑顔が見られるから。
玄関先から流れてくる笑い声。
……ちょっと妬けちゃうけど、ね。
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