「暗躍」

 

 

 

真夜中を少し過ぎた頃、僕はそっと外に出る。

空は星が見えるときもあるし見えないときもある。
月が出ているときもあれば出ていないときもある。
どちらもその時の夜の気分に左右されている。

どちらでもいい。
どうってことない。

でも

そうもいかないモノもある。

見えて欲しくはないモノ。
出て欲しくはないモノ。

僕はそれらが夜のなかに出てきてしまってはいないか、見えてしまってはいないか、確認しなければ眠れない。
これが、あの夜からの僕の日課となっていた。

 

あの夜。
僕はそこにいなかった。

だからだろうか?

彼女がソレを見つけたのは。

大体、なぜその日に限ってヤツが忽然と現れたのかわからない。
ギルモア邸の周りなど何もないのだ。用もないのに迷いこむような場所ではない。
ならば、最初から――ギルモア邸に住んでいる誰かに見つけてもらいたいと思ってやって来た。
狙いを定めてやってきたのだと疑われても仕方あるまい。

心が綺麗なフランソワーズはそんなことは考えもしないだろう。

だから、彼を見つけ保護した。
そう――まるで草食動物のように無害だと信じ込んで。
そうでなければ、ヤツが真夜中に悲鳴を上げたからといって寝巻き姿のままでヤツの元へ行ったりなどしないだろう。何も羽織らず、ベッドからすり抜けたそのままの姿で。
僕ではない、他の男の部屋へ。
たったひとりで。

話を聞いた時は全身の血が沸騰するかと思った。

別の意味で襲われてもおかしくない状況だった。
なぜ、ジェロニモに声をかけなかったのか。
なぜ、何か羽織ろうとしなかったのか。
そのあと着替えたにしても――部屋の鍵を閉めずに着替えるなんてどうかしている。
僕がいる夜ならまだしも、見知らぬ男を泊めているのだ。覗かれる危険性を考えなかったのか。

これだから、ひとりにできない。
フランソワーズは他人を悪く思うとか疑うとか、そういうことはしないのだ。
特に、いったん「このひとはいいひと」とか「かわいそうなひと」と思ったら途端に警戒を解いてしまう。
それが危険なのだと何度言っても譲らない。

だから僕は決めたのだ。
彼女がそうしてしまうのなら、だったら――彼女の見える範囲、聞こえる範囲にそういうモノが出現しないようにすればいい。
もしも出現していたら即刻排除する。彼女が気がつく前に。

しかし当然のことながら、普通に出てきてしまえば僕が毎晩パトロールしていることなどすぐに彼女にばれてしまうだろう。
例えば、彼女が他のことを考えるひまもないまま深い眠りにつくようにしない限り。

だから僕は、あの夜から毎晩そうしている。
今も彼女は夢の中にいるはずだ。僕が抱き締めている腕を解いても気付かなかったくらいだから大丈夫だろう。

 

そして僕はひとり夜のなかにいる。


あの崖の上で。
落ちていくヤツをただ眺めていたときのように。

その深遠を観る。

観察する。

見張っている。


ヤツの亡霊が登ってこないように。


二度とフランソワーズの前に姿を見せないように。