原作93「カフェでよそ見」
先に見ていいよと言われ、フランソワーズはメニューとにらめっこしていた。 「ねえ、ジョー」 決められないわと顔を上げたら、ジョーがよそ見をしているのが目に入った。 「ちょっとジョー」 帰る、と席を立った。 「えっ、フランソワーズちょっと待」 慌てるジョーの声を背に聞いて、でも立ち止まらない。 「フランソワーズっ」 背後から追ってくるジョーの声。でも歩を緩めない。 「待てってば」 一瞬で――ジョーはフランソワーズの目の前に出現していた。 「やっ、ちょ、ジョー、あなた…」 わかったから。 「で、どうするのよもうっ!!」 (オープンカフェで良かった?屋内だったら店内が悲惨なことに)
スイーツ目当てで来たのだけれど、どれもこれもおいしそうで目移りしてしまう。
何を見ているのと目を遣ると、そこには綺麗な女性の姿があった。
途端。なんだか頭に血が昇った。
「ん?何?」
「いま、よそ見してたでしょ」
「え?」
「他のひと見てたでしょ」
「見てないよ」
「嘘よ。見てたわ――もう知らないっ」
楽しみにしていた久しぶりのデートなのに。なのにジョーの態度はちっとも楽しそうではないし、なんだか嫌々ここに来たようで――だからよそ見などするのだ。
それに、彼が見ていた女性はおしゃれで綺麗だし。
ジョーもそういうひとにみとれちゃうんだ――と思うと悲しくなった。
もちろん、彼が誰を見ていたって構わない。が、自分と一緒の時は自分だけ見ていて欲しかった。
今日を楽しみにしていた分、己が憐れで情けなくて、ちょっぴり涙が出た。
目の前にジョーの顔。
途端、周囲から上がる悲鳴。
「よそ見なんかしてないよ。僕が見ていたのは、彼女が食べていたスイーツだっ」
「ええとそんなことより」
「そんなことってなんだ。僕にとっては大事なことだ。断じて他の女性なんて見るものか」
「え、ええ、わかったからその」
「フランソワーズしか目に入らないの、知ってるよね?」
「え、ええ…」
「本当だな?」
「ええ」
「ヨシ。じゃあ泣いちゃだめだフランソワーズ」
「ええ、そうねもう」
特殊繊維で作られたわけではない私服――は、きれいさっぱり燃えカスとなっていた。
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