「捜すほうの気持ちにもなって頂戴」


先刻から突き刺さる辛辣な声。
ジョーは、意識はとうに戻っていたけれどずっと目を閉じたままでいた。


ギルモア邸地下のメディカルルームに搬送されて数時間が経過していた。
自分がどう串刺し状態から復活したのかわからないけれど、ともかく今は腹から異物が生えていないことだけは確かなようだった。
規則正しい心電図モニターの音がするし、自分の呼吸に合わせて電子音もする。
静かで清潔な室内で手厚く看護されているようだった。


「寝たフリしたって駄目よ。起きてるの、ちゃあんと知ってるんですからね」


モニターの変化で全部わかってるんだから!と声を大にして言われる。
そして、その声は最初は足元のほうから聞こえていたのが今や顔のすぐ近くから聞こえてくる。


「まったくもう。深追いしちゃ駄目って言ったのに聞いてなかったでしょう」


――まあね。でもさ・・・


「あそこの工場は廃材がたくさん置いてあって危ないから、誘いこまれないようにってあれほど言ったのに」


そうは言っても、そういう状況じゃなかったんだよ。


「もうっ・・・見つけた時は心臓が止まりそうだったわ」


それは――ごめん。


「でも心臓を止めてる場合じゃないし、泣いてる場合でもないでしょう。あなたを助けなくちゃいけないし」


ああ――泣きそうになったんだ?


「あなたったら、死体のように冷たかったし、最初は本当に死んでるのかと」


ちょっと言葉に詰まった。
泣いているのかとジョーが目をうっすら開けようとした途端、

「――もうっ。だから嫌いっ。ひとの話をぜんっぜん聞いてないんだもの!あれほどあの区域は危険よって言ったのに!」


怒鳴られた。


「もうっ、ジョーのばかばかばかっ。何回言っても足りないわっ!」


更に息の続く限りばかばか連呼された。
だからジョーは、やっぱり目を閉じたままでいることにした。
いま目を開けて彼女を見たら――


「もうっ、何笑ってるのよっ」


そう。
絶対、嬉しくて笑ってしまうから。

フランソワーズの怒る声は、そのまま――あなたが大事なのと言っているのと同じなのだから。

 

だからジョーはもう少しこのまま――目を閉じたまま、声だけ聞いていることにした。
嬉しい時間をもう少しだけ楽しむために。