「彼女のアヒル」

 

 

「ジョー。これ以上、アヒルを増やしてどうするつもり?」


今日もアヒルを手に帰宅したジョー。
フランソワーズは呆れたようにその手のなかのアヒルを見つめた。

ジョーが持っているのは手のひらサイズの小さなアヒル。全体が黄色く嘴だけが赤い。
ビニール製でお風呂やプールなどなどで遊ぶ玩具である。

ジョーはにっこりして言った。


「だって、喜ぶから」
「確かに喜ぶでしょうけど・・・」


フランソワーズはちらりと視線を足元に投げた。
そこには黄色いアヒルの群れがいるのだった。

ジョーは数歩進んでフランソワーズの前に黄色いアヒルを差し出した。
目の高さに掲げる。

すると、小さな笑い声が起こった。


「ほら。喜んでる」


ジョーもにこにこと笑いかけている。


「・・・一番喜んでいるのは、あなたでしょう」


フランソワーズは笑顔をかわす彼と彼女を見つめ、自分も一緒に笑顔になった。

彼女がアヒルを見て笑ったからといって、毎日買ってこなくてもいいのに。

なのに、ついそれをしてしまうジョーの気持ちもじゅうぶんわかるのだった。


だって、私も嬉しいんだもの。
ジョーと彼女が一緒に笑うのを見るのが。


「ほら。喜んでいるだろう?フランソワーズ」
「えっ?」


ジョーと目が合う。

喜ぶから、って・・・それって、私のことだったの?

ジョーはフランソワーズから彼女を受け取ると、さっとフランソワーズの頬にキスをしてバスルームへ向かった。

 

 

 

 


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