「彼女のアヒルは」

 

 

ジョーは悩んでいた。
かれこれ10分は経っただろうか。

そろそろ周囲の視線も気になる頃だが、それでもジョーは微動だにしない。
その悩ましげな横顔が、周囲の女性の熱い視線を集めていることにも気付いていない。
写メの対象になっていることにも。


「・・・あの」


目線を上げて、店員を探す。
すぐそばに控えていた女店員は待ってましたとばかり、満面の笑みでジョーに近付いた。口紅を塗りなおしておいて良かったと思いながら。


「はい、なんでしょう?」
「あの、これってどんなふうに繋がっているんですか?」


商品を指差したまま問う。


「はい。こちらはマジックテープで繋がっております」
「・・・マジックテープですか」


ジョーは商品の前にしゃがみこむと、ううんと唸った。
店員もその隣にしゃがみこむ。


「かなり強力ですので、簡単には離れません」
「水につけても?」
「はい」
「お湯につけても?」
「はい。もちろんです」


ジョーはそのままの姿勢で更に悩んだ。
そして、隣にしゃがみこんでいた店員が足がしびれて限界だと思った頃、やっと商品に手を出した。


「これ、ください」


照れたような笑みを向けられ、女店員はそのまましりもちをついた。

 

 

***

 

 

数分後。

 

ジョーは鼻唄混じりに帰途についていた。
手にはエコバッグ。白地に、はちみつ好きなクマのキャラクターが大きくプリントされている。
時々、その中を覗き込んでは頬を緩ませる。


・・・喜ぶかな。


バッグの中には縦一列に繋がった3連のアヒルが入っていた。

 

 

 


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