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「えっと……ごめん!フレイアとちゅうしちゃったんだ」
両手を顔の前で合わせ、拝むようにしてジョーは頭を下げた。
「――えっ?」
「だから、さっき。きみのいないとき」
いない時?
それは隙をついて浮気したという意味だろうか。
いやしかし。
だったらわざわざ言わずとも黙っていればいい。
フランソワーズが首をちょこっと傾げるのと、ジョーが慌てたように言葉を継ぐのが同時だった。
「あ!違うよ、僕がしたんじゃないし、浮気とか全然そういうんじゃないよ!」
「……」
――怪しい。
つい今までは、いったいこの人は何を告白したいのだろうと不思議に思っていたが、こうして慌てて自ら浮気という単語を発したとなると……
「ホラ、彼女は熱に浮かされてただろう?だから、恋人と僕を間違えて」
「間違えて、フレイアからちゅうしてきたの?」
「うん、そう!そうなんだよ」
いやあ、わかってくれて良かったよフランソワーズ。
そう満面の笑みで言うジョーを見ながら、フランソワーズの心は波立った。
まあ、浮気じゃないのはわかる。
ジョーは女性に対してガードが甘いので、割りとこういうことは起こるのだ。
だから慣れる――ということはないのだけれど。
「――事故みたいなもの?」
「うん」
「ジョーからしたんじゃ、ないのね?」
「違うよ!」
とんでもない、と頭を強く振る。
確かに嘘をつけるひとではないし、嘘をつくぐらいならそもそも事故ちゅうの報告などしないだろう。
「――で?」
「うん?」
「それで、ジョーはどうしたいの?」
問題はそこだ。
黙っていても良かったのにわざわざ報告する意図がみえない。
「あ。――うん」
なぜかちょっと照れたように視線をさまよわせ、
「……ちゅうしたくなったから」
ぼそりと言われた。
「はあ?フレイアとちゅうしたせいで私としたくなったっていうの?」
「あ、いや、なんていうか…………はい」
呆れた。
呆れて開いた口が塞がらない。
「あのね、ジョー」
「だめ?」
「だめとかそうじゃなくて」
「じゃあ、いい?」
「だからそうじゃなくて」
どんどんジョーが迫ってきて、フランソワーズは壁を背にし進退極まった。
「ちょ、ジョー」
「フランソワーズ」
だって隣の部屋にみんないるのに。
落ち着かないわ…と思った瞬間、ドアが開いた。
「ジョー、そろそろ出発……こりゃ失敬」
不本意ながら、熱烈なちゅうを見られてしまった。
帰り道、ジョーが上機嫌な理由とフランソワーズが不機嫌なわけは誰もが知るところであった。
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