おやすみのキス

 

 

――どうしてきみは僕を選んだのだろう?

 

隣に眠っている亜麻色の髪をもつきみ。
きみに初めて会ったのは戦場だったね。
その時、きみのそばには既に7人の仲間が居て。
その中心できみは花のようだった。
どんなに僕が鈍くてもわかった。
きみがとても大事にされていること。
みんながきみを守るように立っていたから。

最後に仲間に加わった僕。
当然、他のメンバーと距離があったし、きみと話すなんてとてもできなかった。
何しろ、自分の状況を理解する事で手一杯だったし、無我夢中だったから。

だから――いつからきみをこんなに好きになったのかわからない。
全然、覚えていないんだ。
気がついたらきみは僕とこうなっていた。
そんな事を言ったら、きみは怒るだろうけれど。

 

「ジョー?・・・寝ないの?」

僕があんまり見つめているから、眠っているフランソワーズは視線を感じたのだろうか目を開けた。

「うん。もうちょっとしたら寝るよ」
「・・・そう」

安心したように微笑むきみ。
手を伸ばして僕の頬を撫でる。じっと目を見つめて、愛おしそうに。

 

そういえば、だいぶ前に訊いたことがあったかもしれない。
きみはどうして僕を選んだのと。
仲間は男ばかりだったし、仲間に限らず彼女の周りにいる男は彼女を放ってはおかなかった。
そんな状況だったから、彼女にとってはよりどりみどりなはずで――

でも、フランソワーズは言った。微笑みながら。

「この目が好き」

僕は自分の目が好きじゃない。日本人に特有の黒い色ではないから。

「この髪も好き」

僕は自分の髪も嫌いだ。どうして黒ではなくて褐色なのだろうとずうっと恨んでいた。

「ジョーの声が好き。髪を撫でる腕も、守ってくれる胸も背中もぜんぶ好き」

ぜんぶ好き――それは、トクベツどこも好きではないと同義だ。
つまりきみは、別に僕のことなんて――

「もう。ジョーはばかね。一番好きなのは気持ちよ?」

外見なんてどうでもいいの。優しくて強くて泣き虫で甘えん坊のあなたが好き。
僕は甘えん坊じゃないよ。泣き虫なのは不本意ながら認めるけれど。
そう言ったけれど、きみはただ微笑むばかりで相手にしてはくれなかった。
でも、微笑むきみを見ていると身体のなかが温かいもので満たされて――僕は、幸せってこういうことをいうのかと初めて知った。

 

フランソワーズは少し身を起こすと僕の頬にくちづけた。
次に何を言うかはわかっている。なぜなら、僕はいつもそうしてもらって、やっと眠りに落ちるのだから。
僕の髪を撫でながら、彼女が言う。

「おやすみなさい。ジョー」

うん。おやすみ、フランソワーズ。
明日も明後日もその次も。きみのおやすみのキスで僕は眠りにつくだろう。