カウンター50000ヒット御礼
「すみません。その・・・友人に預けていたのを忘れてしまって、て」 ジョーが口ごもりながら警官に言っているのを、フランソワーズは顔を上げられず腕に抱いたイワンに隠れるようにしながら聞いていた。
「――全くもう・・・!いったいどこに行ってたのよ!こら、イワン、言いなさい!」 帰りの車の中である。 「ダメだよフランソワーズ。寝てるんだから」 つん、と顔を上げるフランソワーズをジョーはやれやれと見つめた。 「イワンにはイワンの事情が何かあるんだろう・・・?」 いっしゅんジョーを見つめ、目が合うと慌てて逸らせた。 「――だって!私が、――子供を友人に預けて忘れてしまった・・・なんて、そんな筋書き許せないもの!」 全く聞く耳を持たないフランソワーズに、ジョーは黙って運転に専念することに決めた。 「ジョーだって、子供を忘れて遊び惚けてるイマドキの父親に見られちゃったのよ!?そんなの、屈辱だわ!これじゃあ、二人揃ってすごーく無責任なカップルみたいじゃない!!きっと、子供を忘れて何をしてたんだ、って思われたわよ!!ヤダ、もうっ!!」 顔を覆って、それっきり静かになったフランソワーズをちらちら横目で見ながら、ジョーは心の中でため息をついた。 ったく、考えすぎなんだよなぁ・・・。大体、何をしてたんだ、って何だよ?やましいことは何もしてないぞ・・・ と、思ったところでフランソワーズの肩が揺れていることに気がついた。 「――フランソワーズ?」 しゃくりあげつつ絞り出される声に、ジョーは今夜何度目かの「やれやれ」を呟いた。 ――イワン。君は寝てるからいいけどさ・・・。次に起きたときは知らないぞ。 ともかく、今や盛大にしゃくりあげている彼女の肩にそっと手を置いた。 「ハンドルから手を離さないで!」 凄い勢いで睨まれた。泣いているはずなのに。 「え、あ・・・ハイ」
***
その夜、イワンの着替えを済ませたあと博士が「みんな疲れているじゃろうからワシが面倒を見るから良いよ」と何度言っても、フランソワーズは頸を縦には振らなかった。 「――え」 びっくりしたのはジョーだった。 「い、いや・・・フランソワーズ?」 イワンを抱き締めたままテコでも動かない様子でリビングのソファに座っている彼女の正面に回る。 「イワンは寝てるんだよ?たぶん・・・しばらく起きないし。反対に君は今日一日ずっと心配し続けていて疲れているんだから、ゆっくり休まなくちゃ」 ちらり、と蒼い目がジョーを射る。 「ゆっくりなんて休ませてくれないくせに」 傍らにいる博士の存在を気にしつつ、真っ赤になって言い募る。 「ともかく、ここにずうっとこうしている訳にはいかないだろう?」 自分の腕の中でぐっすり眠るイワンをじっと見つめる。ぷっくりとした頬。すべすべの。ミルクの匂いがする小さな身体。抱き締めていると安心する。
「・・・しょうがないなぁ」 しばらくして、ため息とともにジョーの声が降ってきた。 「・・・わかったよ。いいよ、ここにいて」 「フランソワーズも休まなくちゃいかん」 しぶしぶ、自室に向かう。何度も背後のイワンとフランソワーズを振り返りながら。 「・・・・仕方ないのう」 ジョーはそのドアを見つめ、――そうしてフランソワーズを振り返った。 「・・・今日は寝ないつもり?」 フランソワーズの隣に腰掛け、イワンを覗き込みながら言う。つんつんとほっぺをつついて。 「・・・ごめんなさい。わがまま言って」 そう言って、そうっとフランソワーズの肩を抱き寄せた。 「君のわがままっていうのはもっと――」 そのまま、彼女の耳元で小さく囁く。 「!!」 ジョーが真っ赤になったフランソワーズに見惚れていると、ぎゅっと脇腹をつねられた。 「もうっ・・・ジョーのばか、知らないっ」
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