受け止めるはずだったのに。

 

私はジョーの言葉にただぽかんと突っ立っていた。

松林の中。スニーカーに砂が入ってじゃりじゃりする。

 

「え・・・っと、ジョー?意味が」
わからないわ。


「そう?言った通りの意味だけど」


ジョーは照れたりも困ったりもせず、淡々と答えてくれた。


「僕は君の睫毛の数も知ってるんだよ」


って。


いつ数えたの?

というか

どうして知っているの?

というか

一体、どんな意味が隠されているのかわからない。

だから――なんなの?


「だから、そういうことだよ」


そういうこと、って・・・?

つまりジョーは、私の睫毛の数を数えられるくらい近くにいて、睫毛の数を数えられるくらいの時間を私のそばで過ごした。ということ?
一体、いつ?


でもジョーはそれっきり、唇を真一文字に結んで黙り込んだ。こうなったら何も話してはくれない。
だから私は、また推測するしかない。

つまり、いつのことなのかわからないけれど、彼はそのくらい近くで私を見ていた・・・ということなのだろう、と。
ひとの睫毛の数を数えるのが彼の趣味ってわけではないだろうから、それ自体が目的ではないのだろう。

と、いうことは。

つまり。


「――ねぇ。ジョー」
「ん?」
「私にも数えさせて」
「えっ?」
「あなたの睫毛の数」
「い・・・」

嫌だという隙を与えず、私はジョーに肉迫した。

「ふうん。意外と睫毛が長いのね」
「ふ、フランソワーズっ」
「駄目よ。私も数えてみたいわ」
「だけど」
「ふうん・・・これだけ近付かないと駄目なのね」

おでこがくっつくくらいの距離。そして――

「・・・数えるのって、時間がかかりそうね。駄目よ、逃げないで!」

ジョーが顔を背けるのを両手で彼の顔を挟んで阻止する。

「フランソワーズ。もういいだろう?」

何とも情けない声。

「駄目よ。だってジョーは私の睫毛の数を数えたんでしょう?こんな近くで」
「それは」
「だから私も数えたいの」

 

 

 

 

 

そうして数え終わったときにはとっくに日が暮れていた。


「・・・随分、時間がかかるのね。ジョーもそうだったの?」
「――まあ、ね」
「そう・・・」


思わず笑っていた。

だって。

だって、もう。

ジョーったら。

こんなメンドクサイこと、私だったら絶対にしないわよ。好きなひとが相手じゃないと。
こんな間近でずうっと目を見つめているなんて正気の沙汰じゃない。


「・・・いいわ。もう・・・わかったから」

そうして私はジョーの胸に頬をつけた。


目を見ればわかる。

ジョーはきっと――私の事が好き。ね?
だってそうじゃなくちゃ睫毛の数なんて数えないでしょう?


いいわ。


私だけが伝えるのでも、いい。

だって、こうしてそばに伝える相手がいるほうが大事だから。

 

好きよ。

 

大好きよ。私のジョー。

 

 

 

 

 

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