イケメンの条件
イケメンの条件。
「さわやか」「誠実」あとひとつは?
眼下に見る009の姿はとても小さかった。 そんな彼をぐるりと囲む装甲車。全てミサイルを搭載しているのは言うまでもない。 ジョー、逃げて。 叫んでも聞こえるはずもない距離。 上空を旋回しているヘリコプターに003はいた。 ジョー。もういいわ。逃げて。 009は自分の頭上にいるヘリコプターに003が乗っていることを知っている。 とはいえ。 いくらジョー自身を信じていても、こうも絶体絶命の状況となると003としても不安になるのだった。 だから。 逃げて、ジョー。私のことなんていいから。 しかし003の祈りも虚しく、009に向かって集中砲火が始まった。 003は小さく頷いた。 「よいしょ、っと」 ひらりと機内に滑り込むと009はむっと顔をしかめた。 「――女の子を縛るのは良くないな」 そう言うと無造作に敵の腕を捻り上げ――嫌な音がして肩の関節が外れた。 「ごめん。遅くなって」 ぴんぴんしてるさ、と笑ってみせるのに003は大きく息をついた。 「…良かった。今度こそ死んじゃうかと思ったわ」 涙ぐみそうになる003を抱き寄せ、009はヘリコプターの縁に手をかけた。 「泣くのは後。――行くよ?」 そしてそのまま虚空に舞った。 地上までの数秒間。 「なんだい?」 少し前に話していたこと。他愛もない会話。 『ええっ、知らないよ、そんなの』 それはきっと――勇気。
このままではおそらく数秒後に009は木っ端微塵になっているだろう。
そもそも口を塞がれているのだから声などでるはずもない。
だから003は心の中で叫んでいた。
もしかしたら――届くかもしれない。
そんな映画やドラマのようなことが起こるわけはないのだけれど、今できることはそれしかなかった。
人質になるのはよくある話。
そして009たちが敵に翻弄されるのをただ見ているだけしかできない状況もよくあることだった。
自分の非力さを悔やんだところで活路が開けるはずもないことも。
敵は無情にも目の前で009が倒れる様を003に見せ付けようというのだ。
だから包囲網を突破できないのだ。
装甲車を爆破してしまったら、その爆風でヘリコプターが煽られるのは必至。進退窮まっていた。
「ふん。009といっても特別な性能を持っているわけではない。武器がなければただのサイボーグさ」
確かに009は全体の出来は良いサイボーグではあった。が、敵の言う通り武器等を体内に埋め込んでいるわけではないし、003のように目や耳のスペックが高いわけでもない。
特別なスキルがあるとすれば、それは009にではなく島村ジョー個人のものである。
敵がそれを知る事はない。が、003は知っている。だからきっと大丈夫だろう――と信じている。
「――ふん。終わったな」
そう敵が言った瞬間だった。
大きくヘリコプターが傾いて――あっと思った時には窓に009の顔が覗いていた。
「お、お前っ、嘘だろっ」
「本当さ。003、大丈夫?」
騒ぐ敵を放っておいて、009は003の戒めを解いた。
「ううん。…ジョー、大丈夫なの?」
「え?うん。この通り」
「勝手に殺さないでくれ」
「だって」
そう――どの敵も知らないのだ。
島村ジョーが持っている特別なちからを。
その腕のなかでちょっと笑ったような003に009は訝しげな瞳を向けた。
「ううん。ちょっと思い出しただけ」
『ねぇジョー。イケメンの条件って「さわやか」「誠実」あとひとつはなんだと思う?』
島村ジョーだけが持っている特別なちから。