「彼女」

 

 

リビングから楽しげなふたつの笑い声が響いてくる。

ジョーは胸の上に彼女を抱くのが気に入っていた。
だから今日も、ソファに仰向けに寝転がり、その胸の上に彼女を抱き締めていた。

ジョーが笑うと彼女も笑う。

彼は何度、彼女のその頬にくちづけしたことだろう。

彼女の全てが愛しかった。
彼女の笑顔を見るたびに、笑う声を聞くたびに、嬉しくて幸せで泣きたくなった。
実際、本当に泣いてしまったことも数回ある。
でもそれは、彼と彼女のふたりだけの秘密だった。

 

たぶん、フランソワーズは知らない。

 

 

 

「――ジョー?コーヒー飲むでしょう・・・?」

呼んでも返事がないので、リビングへやって来たフランソワーズはソファに寝転がっているジョーを発見した。
目を閉じている。

「・・・寝てるの?」

そうっと近付いて顔を覗きこむ。
褐色の瞳はぴったりと閉ざされていた。
規則正しく上下する胸。
すっかり眠っているようだった。

「・・・・」

そのまま見つめていると、ふとジョーの口元に笑みが浮かんだ。
嬉しそうな、楽しそうな。

「・・・寝てるの、よね?」

小さく言って覗き込む。
呼吸の乱れはなく、やはり眠っているようだった。

規則正しく上下する胸。

その上には、大事そうにしっかりと抱き締められた彼女の姿があった。
彼女もまた、彼の胸にうつぶせになって眠っているようだった。

フランソワーズはちょっと眉間に皺を寄せると、そうっと彼女をジョーから離した。

「危ないから、もらっていくわよ・・・?」

小さく声をかけて、彼女をジョーの胸から抱き上げる。
けれどもジョーは彼女から手を離そうとはしないのだった。

「ダメよ、ジョー」

言い聞かせるように優しく、けれども断固とした口調でフランソワーズは言う。
が、起きているのか寝ているのか定かではない彼は絶対に手を離そうとはしなかった。

毎回の事とはいえ、フランソワーズはそんな彼を見るたびに嬉しくて幸せで泣きそうになる。

「・・・もう。落としたらどうするのよ」

そうは言っても、彼が絶対にそうしないことはわかっていた。
どんなに寝入っていても、大事なひとを危険な目に遭わせる訳がないのだ。

しかし。

「うつぶせ寝は危ないのよ?」

こちらもきっぱりと言い切って、あっさりと彼から彼女をもらい受けてしまう。
すると、完全に寝ているはずの彼の手が何かを探すように動いた。

そして次の瞬間、

「うわっ、大変だ!!」

突然起き上がった。物凄い勢いで。

「――いなくなった!!」

フランソワーズは彼から数歩離れてその様子を見守っていた。彼女を腕に抱いて。
彼女を彼から離すとすぐに起きる彼。
それも、必死の形相で。
何度同じことをしても、同じ反応を繰り返す彼が楽しくてそして愛しい。

「ちゃんといるわ。ここに」

微笑みながら言うと、「あ」と言って照れたように頭を掻く彼。

「大丈夫。いなくならないわ。私も――この子も」