原作93「嫌い!」

 

 

 

「嫌い!」

 

いつもは優しく(いや必ずしもそうではないが)起こしてくれるフランソワーズなのに、今日は開口一番こんな事を言う。
否、案外「ジョーを起こす」意味では効果絶大なのかもしれない。
何しろジョーはぱっちりと目を開けたし、頭もすっきり醒めたから。


「――おはよ、フランソワーズ。いきなり何だい?」
「嫌い」
「うん。それはわかったから」
「んん。そうじゃなくて――もう。嫌いって言ってるのよ私。もっとこう…動揺するもんじゃないの」
「動揺してるよ?」
「嘘。いつもと変わりないわ」
「してるって。ホラ、こんなに寝起きがいい」

なんだか腑に落ちない。

「ほっぺ膨らませてないで。いったいどうしたのか言ってごらん」
「…別にいつもと変わりないわ」
「おかしいな。変わりなくて嫌いなんて言わないだろ」
「ジョー。どうして本当に嫌いになったかもしれないって思わないの?」
「どうして、って…」

ジョーは頭を掻いた。

「だってフランソワーズが僕を嫌いになるわけないし」
「なったかもしれないでしょ」
「うーん…でも本当に嫌いになったら、わざわざそう言わないような気がするんだよね…」


本当に嫌われたらどうなるのか。

そんなことは昔から散々シミュレートしているジョーであった。
そして、「嫌い」とわざわざ宣言するフランソワーズという図は彼のシミュレーションには存在すらしていない。


「うん。だから大丈夫。フランソワーズは僕を好きだよ」

 


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