「真夜中」

 

 

ともかく疲れていた。
体は鉛のように重い。
明日の事を思うなら、一刻も早くベッドに入りたい。

僕はそれだけを願って、階段を上った。
このまま進めば自分の部屋だ。

でも・・・

暗く冷えきった部屋とベッドを思うと気分が沈んだ。

今の僕には、温かくて柔らかいものが必要だ。
それを抱き締めて寝たら、きっとぐっすり眠れるだろう。
僕の冷たい鋼鉄の体も、少しは温かくなるかもしれない。


僕はそうっとドアを開けた。
そして今更ながら、鍵をつけたほうがいいと思った。

いくらなんでも不用心すぎる。
これでは、いつ誰が入ってきてもおかしくない。


そう言ったら心配症ねと笑われたけれど。


まあ、確かに怪しい輩なら、鍵など関係なくドアを破るだろう。
だから、鍵など不要といえば不要なのだけれど。


僕は静かにドアを閉めた。


温かいベッドはすぐ目の前だ。
きっと、深くて優しい眠りをもたらしてくれるだろう。


僕は細心の注意を払ってベッドにもぐりこんだ。
と、間髪をおかずに風を切る気配がして、僕の頬が派手な音をたてた。
衝撃で床に転がり落ちる。
頬を押さえ呆然と見上げる僕の目の前には、燃えるような蒼い瞳をした金髪の女神。


「もうっ。黙って入って来ないでって何度言ったらわかるの!ノックくらいしなさい!」


「・・・はい。ごめんなさい」

 

 

ドアに鍵をつけたら、一番に閉め出されるのはきっと僕だろう。