「コタツの行方」

 

 

そろそろコタツを出そうかしらと考えたフランソワーズは、季節ものをしまってある部屋に来ていた。
広大なギルモア邸は、使っていない部屋の方が多く、このように物置になっているものもあるのだ。
中は整然と片づけられており、各季節ごとに分けられていた。

フランソワーズは冬のコーナーにまっすぐ進み、さてコタツはどこだろうと思案した。
大きさからいって、すぐに見つけられるだろうと思っていたし、実際、去年は探さなくても目の前に積んであったのだ。

しかし。

それが、今年は・・・無い。

コタツを置いてあったであろうスペースはある。
が、肝心のコタツが無い。

フランソワーズは胸の前で腕を組み・・・首を少し右に傾けた。

「ジョーに訊いてみようかしら」

そう思ったのはジョーを頼りにしている証拠なのか、あるいは別の嫌な予感のためだったか。

ともかく地下に降りて、なにやら作業中のジョーをつかまえた。

「珍しいね、フランソワーズ。ここまで来るの」

僕に会いにきたのかい、はははまさかねと勝手にひとりコントをしているジョーに取り合わず、フランソワーズは真顔で尋ねた。

「コタツがないの。ジョー、知らない?」
「コタツ・・・?」
「ええ。そろそろ出す時期でしょう。そう思って物置部屋まで行ったんだけど、なかったの」
「へえ・・・」
「ジョー、知らない?」
「えっ、どうして僕に訊くんだい」
「コタツの行方を知っているかと思って」
「行方・・・」

ジョーはあらぬ方を見つめていた。
フランソワーズはその視線を追った。

そこにあったのは、ジョーが作成中のものだった。
いったい何を作っているのかまだわからない。
ジョーも教えてはくれなかったけれど、乗り物らしいことは確かだった。
名前もついている。
フランソワーズ号と。

「フランソワーズ号がどうかしたの?」

フランソワーズはそこで思い出した。
確か廃材を使って作っているようなことを聞いた。
材料がまだまだ全然足りないということも。


いやな予感がした。


「あの、ジョー?まさかコタツを・・・」
「あはっ、ばれちゃった?ちょうどよかったんだよ、大きさとか」

フランソワーズは無言でじいっとジョーを見た。

「いやほら、ね?これだって早く完成させたいし」

フランソワーズは無言のまま。

「だからさ、そのぅ」
「・・・」
「ええと」
「・・・」
「・・・ごめんなさい」

フランソワーズは大きく息をついた。

「まったくもう」

素直なのはジョーの長所なのだろうけれど、こうもあっさり謝られると知能犯のような気もしてくる。

「今年の冬は寒いのよ」
「うん。知ってる。でも持ち出した時は暑かったんだ」

悪びれず言うのがジョーのいいところなのかもしれない。

「どうするの?寒いわよ、きっと」
「うーん。そうだなぁ。・・・でも、ほら。こうしてくっついていたらあったかいと思わない?」
「んもう、思わないわよ鬱陶しい」

べたべたくっついてくるジョーを引き剥がす。が、なかなか剥がれてくれなかった。

「暑苦しいでしょ」
「ほら、あったかいじゃないか」
「そういう意味じゃなくて」

とはいえ。
なんだか段々とジョーの術中にはまっていくような気がした。
大体、作っているものの名前がフランソワーズだなんてふざけている。
いったい、何を考えているのだろう。

「そんなの、愛着があるからに決まっているだろ」

心の声が聞こえたかのように答えるジョー。

フランソワーズは抗うのをやめてからだのちからを抜いた。
ジョーの抱き締めるままに任せる。

「もうっ・・・ほんと、いやなジョー」

 

 


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