「好きなひとは?」
「好きなひと?好きなひと、って・・・」 「・・・」 額を押さえ小さく溜め息をつく。 「フランソワーズ。君の好きなひとは彼?」 フランソワーズの視線を追って、目の前の青年が訊く。 「え?ええ・・・」 歯切れの悪いフランソワーズに青年が畳み掛ける。 「本当に彼なの?」 青年がフランソワーズの二の腕を掴む。 「ジュテーム、フランソワーズ」 積極的な青年に、 んもう、ジョーったら漫画読んで笑ってる場合じゃないでしょう! と心の中で叫んだときだった。 「えっ?」 見ると、青年の眉間から漫画雑誌が生えていた。 「ジョーっ?」 投てきの姿勢そのままのジョーは、つまらなそうに右手を振ると再びソファに埋まった。 「だ、大丈夫?」 青年を助け起こそうとするフランソワーズに冷たい声が飛ぶ。 「放っておけ」 ふん、と胸の前で腕を組んだジョー。その顔は前髪に隠れて見えない。 「・・・あの、ジョー?」 ジョーが顔を上げてにやりと笑った。 「あ、もうっ!ずるいわ、ジョー!」 フランソワーズはジョーの首に腕を投げかけた。 「あなたの名前を呼ぶの、恥ずかしかったんだもの」 「そうじゃなくて。・・・だって、あなたが目の前にいるのに」
フランソワーズがちらりとリビングの向こう側を見た。
その視線の先には、漫画を読んで大笑いしているジョーの姿。
「本当に?」
「ええと」
「フランソワーズ、本当の事を言って欲しい。本当は、いないんだろう?好きなひとなんて」
「え。あ、」
「フランソワーズ」
「え、あ、ちょっと」
「ぐはあっ」
美しくない言葉とともに青年がのけぞり、一瞬のうちに視界から消えた。
「ふん」
「でも」
「そのうち勝手に目を覚ますさ」
「でも、ジョー」
「ふん。間男にかける情けはない」
「間男って、私は別に」
「なんでもかんでも拾ってくるな」
「だって、可哀想だったんだもの」
「懲りたはずだろう?」
「・・・でも」
「でももだってもナシ」
フランソワーズは伸びている青年をちらりと見てから、身を翻しジョーの元へ行った。
「・・・
「あの、・・・ごめんなさい」
「・・・うん?」
「でも私、そんなつもりじゃ」
「・・・わかってる」
「ふん。ヤツの質問にちゃんと答えないからさ」
「だって・・・んもう!」
「僕の名前は恥ずかしいのかい?」