「迎えに行くよ、フランソワーズ」

 

 

「あれ?ジョー、お前ひとりか?」

「ああ」
「ああ、って、おい」
「うるさいな。いいじゃないか、僕ひとりだって」
「いや、でもさぁ」

僕はジェットとピュンマの追求を振り切るように、乱暴にマフラーを解いた。
確かに二人の気持ちもわかる。今回のミッションにはフランソワーズのちからが必要なのだから。


だけど。

本当にそうだろうか。

本当にフランソワーズがいないとダメだろうか。


・・・そんなことはない。


そんなことはないだろう。


フランソワーズのちからというのは、要は精度の高いレーダーだ。だから、それに相応するものがあれば、彼女がいなくても事足りるはずだ。


そう・・・何も彼女に頼らなくてもいい。

巻き込まなくてもいいんだ。


「おい、ジョー」

ジェットが乱暴に僕の肩を掴む。

「本気で言ってるのか?」

僕はジェットの目を見返す。

「なんだ、その目は」
「うるさいな、別にいいだろう、新しい機械を買えば」
「機械っ・・・!?お前、フランソワーズは機械じゃないだろうが!」
「ああ、そうさ。だからいなくてもいいじゃないか」
「いなくてもいい?正気か?」
「やめろ、ジェット」

ピュンマが間に入る。ジェットはしぶしぶといった感じで僕の胸ぐらを離した。
僕は大きく息をつく。

「らしくないな、009。いつもシビアに計算していたじゃないか。それをどうして今回に限って。
003を機械で代用しようなんて本気じゃないんだろう?いったい何があった。フランソワーズが来たくないと言っているのか?」

「・・・彼女はそんなこと言わないよ」

みんなのために私も頑張るわと言うだろう。少しでもみんなを守りたいの、と。

「だったらどうして」
「・・・」
「お前、わざと置いてきたのか?」

僕はのろのろと顔を上げて、ピュンマの視線を捕えた。


「ああ。003は要らない」

「・・・お前」
なんて目をしやがる。

ピュンマの声を遠くに聞きながら、それでも僕は同じ言葉を繰り返した。

 

003は要らない。

 

003は要らない。

 

呪文のように。

 

 

みんなは僕がフランソワーズに会って、直接そう言ったと思っているのだろう。別の機械で代用できるから、来なくていいよ、と。

だから、フランソワーズの気持ちを思って僕に怒りをぶつけてくる。


それでいい。

それこそ、計算通りだ。


実際には、僕はフランソワーズに会っておらず、そもそもフランスにも行っていないなど知る由もないだろう。


僕はフランスに行っていない。


僕はフランソワーズに会っていない。


迎えになんて行っていない。

 

行くわけがない。

 

平和な毎日を送る彼女の生活を脅かすもの。
それら全てを僕は取り除く。

何が世界のためだ。何が僕らの運命だ。

そんなもの、どうでもいい。


僕はフランソワーズを守るとそう決めたんだ。
例え仲間になじられようと構わない。

僕が防波堤となって彼女を守る。

守ってみせる。

そのためなら、009としていくらでも闘えるんだ。

 

 

僕の大事なフランソワーズ。

 

 

きみに戦場は似合わない。

 

 

 

 

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