「熱病的愛情」
超能力者といってもイワンはまだ赤ちゃんだから。
だから、知らないことやわからないことは彼が思っているよりたくさんあって。
それは――彼(イワン)が「熱病的」と表現したこともそのなかのひとつだった。
熱病的な愛情。
そう言って、何か――そう、一時的な病のように。
普通はそうじゃないみたいに。
でもね、イワン。
あなたは全然わかっていない。
考え方がオトナびてるとか、豊富な知識とか、そんなものとは関係なく大人にならないとわからないことって実はたくさんあるの。
だって。
…あれって何も特別なことではないのよ?
私もジョーも面と向かってそう言えはしなかったけれど。
(だってみんなの前であれは違うんですなんて言えないでしょう?)
でも、本当に――そう、本当に「いつものこと」なんだもの。
私とジョーが一緒に夜を過ごすのなんて、全然珍しいことじゃない。
……でも。
やっぱり言い訳じみているかしら。
当たり前のいつものことよって声に出して言ってみたら、本当に普通のことのように聞こえるかしら、って確かにちょっとは思ってる。
それは認めるわ。
そうね。
やっぱり多少は熱病的なのかもしれない。
ジョーはどうかわからないけれど。
でも――もしかしたら、私はそうなのかもしれない。
だって。
確かなものが欲しいんだもの。
今まで見たこともない強大な敵――神?――と戦うのなら。
その前に今の自分は何者なのか、ちゃんと知っておきたい。
私は人間なの?
それとも機械?
厳密には機械と生身の割合は半々ではないけれど、でも部分部分をみれば完全に機械のものもあって。
だから時々、わからなくなる。
私は――人間。で、いいの?
その答えを、確たる証を得たくて、私はジョーと寄り添った。
機械は子供を作れない。
人間は子供を作れる。
だから、子供を作ったら私は人間だということになる。もちろんジョーも。
もちろん、誰との子供でもいいというわけではなかったし、答えが欲しいだけというのでもなかった。
ジョーでなければイヤというのはずっと前から変わらない。
そう。
選択肢はとても少なかったけれど、でも――いくら証が欲しくても、やっぱりジョー以外はイヤだわ。
そういう思いこそがイワンの言う「熱病」なのかもしれないけれど。
――うん。
確かにイワンの言ったことは合っているのかもしれない。
私がジョーに対して熱病のように焦がれているということは事実だから。
「…フランソワーズ。どうかした?」
「えっ?どうして?」
「いや……そんな冷静な顔をされるとちょっと困るというか」
「冷静な顔、って…」
ジョーは私の首筋につけていた唇を離すと、ちょっと気まずそうに笑った。
「…冷静なわけないでしょう?こんなにドキドキしてるのに」
私はジョーを胸に抱き締める。
離れないように。
離さないように。
…逃がさないように。
ねぇ。
これってやっぱり熱病?