「その目に他の誰をも映すな」
〜「凍った時間」より〜
「・・・こんなに近くにいたら、あなたしか見えないでしょ?」 言葉と共にふいっと視線を逸らせたフランソワーズに、慌ててジョーは彼女の頬に手をあてた。 「ほら。ダメだよ、こっち向いて」 再び映る、蒼い瞳の中の自分に満足してジョーはにっこり微笑んだ。 「――ん。しばらくそうしてて」 じっと見つめたまま動かないジョー。
いつも変だけど、今日は特に変。いったいどうしたの?
何しろ、朝ごはんの後からずっとこうなのである。
いったい、何事?
見つめ合っていれば何もできない。
変なジョー。
メンテナンスの後、ずっとこうだった。
****
――蒼い瞳。
その瞳に映る自分。
そんなちょっとしたことがこんなに嬉しくて幸せだと思わなかった。 凍った時間の中で、彼女が瞬きをして蒼い瞳が隠れた数週間。
フランソワーズの瞳に映らない自分。 映してもらえない自分。
本当の孤独はそれだった。 その埋め合わせをするかのように、見つめて欲しい蒼い瞳で。
加速した時間が戻り、時間軸は同じになった。 でも、それで、いい。 その話をしたら、彼女は博士にかけあって――加速装置なんて外せというだろう。 そんな思いをするのは自分だけでいい。
だから。
代わりに見つめる蒼い瞳。 見つめる自分を映して欲しい。 自分だけしか映さない瞳を見ていたい。
***
「もう・・・ジョーったら」
ただ見つめるだけのジョー。 フランソワーズは自分の頬を包んでいる彼の手にそうっと自分の手を重ねた。
「――いいわ。じゃあ、今日はずうっとこうしていましょう」 「うん」
嬉しそうに頷いたジョーに微笑みかける。 彼の褐色の瞳に映る自分が嬉しかった。
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