「いってらっしゃい」
「ジョーォ。出かけるんでしょう」 しかし、普通はもうちょっと近くで優しく起こすものではないのか。 階段の下で待ち構えていたフランソワーズが靴下と上着を差し出した。 「もう、やっと起きた」 ジョーは階段に座ると靴下を履いた。 「…もしかして起こしにきた?」 ジョーは無言で腰をさすった。 「飛び蹴り……」 命拾いした。 が、それを言うとあとが怖いし長くなるから黙っていた。 「…間に合いそう?」 上着をジョーに着せながら、フランソワーズはにっこり笑った。 「気を付けてね」 「…なんだったかしら」 首を傾げた。 ジョーが帰ったら訊いてみようかしらと思いながら、玄関ホールをあとにした。
階下からフランソワーズの声がして、ジョーは慌てた。
すっかり寝坊したのである。
フランソワーズに明日は朝から出かけるから起こしてと声をかけておいて良かった。
そう、部屋まで来るとか、「ジョー、起きて」と優しく体を揺するとか。
なのに階下から呼ぶだけとは随分手抜きだなぁとジョーは頭の片隅で思いながら、片手で髪を撫でつけ(しかし寝癖は直らず)片手でジーンズをひっぱりあげるという二刀流を披露しながら部屋から転がり出た。
器用である。
「うん、悪い」
「私だって朝から大きな声を出すのは嫌なのよ?」
「うん、ごめん」
「何回起こしたと思ってるの?」
「えっ?」
「……覚えてないのね。しょうがないひと」
「行きました。でも、びくともしませんでした」
「……」
「それはまだよ。今、起きてこなかったらするつもりだったから」
ジョーが起きないのが悪いのよと説教されるに決まってる。そしてそれは正論なのだ。
「うん。フランソワーズのおかげでね」
「そう。良かった」
「うん」
「お財布持った?」
「うん。あ、持っていく書類」
「これでしょ?」
「うん、ありがとう。さすがフランソワーズ。僕の女だけあるな」
「やあね、それって自分の自慢じゃない」
「ふふん」
「携帯は?」
「ある」
「じゃあ大丈夫ね」
「あ、車の鍵」
「はい」
「ん。いってきます」
「いってらっしゃい」
ジョーを送り出して、フランソワーズはほっと息をついた。
どさくさ紛れに何か重要なことを言われたような気がしたが、