「プレゼント」
「ジョーォ?」
ある朝のことだった。
いつもと同じ朝。いつもと同じ朝食後のコーヒー。
朝の陽射しがいっぱいに降り注ぐリビングにジョーはいた。
マグカップを片手に膝の上に置いた新聞を読んでいる。
そのジョーをフランソワーズが呼んだ。廊下から顔だけ覗かせて。
「んー?なんだい」
ジョーは新聞から目を上げずに答えたから、フランソワーズは少しだけ膨れた。
「んもう!」
小さく唸るとゆっくりとリビングにやって来て、ジョーの後ろに立った。
「何読んでいるの?」
肩越しに覗き込む。
金色の髪がジョーの頬をくすぐった。
「んー?政治の話だよ」
「ふうん」
「イワン任せにしておくのも、ね」
「事件のチェック?」
「うん。そんなところかな」
フランソワーズはそのままジョーの頬に頬を寄せた。
「何?どうかした?」
やっと褐色の瞳がこちらを向いた。
「うん・・・ふふっ」
「何かいいことでもあった?」
「ん・・・そうね」
「なんだい?僕にも教えてよ」
「んー。どうしようかなぁ」
「フランソワーズ」
「・・・あのね」
「うん」
「私、あなたにプレゼントがあるの」
「・・・?プレゼント?」
誕生日でもなければ、何かの記念日でもないよなとジョーは首を傾げた。
「あなたの一番欲しいものをあげられるの」
「一番欲しいもの?」
「そう。・・・年内には」
「・・・年内?随分気の長い話だね」
「だって準備期間だもの。すぐってわけにはいかないわ」
「・・・そうなんだ」
「そうよ。でね、何だと思う?」
ジョーには見当もつかなかったから、ただフランソワーズを見ていた。
「わからないよ」
「一番欲しいもの、よ」
「・・・」
ジョーの眉間に皺が寄る。
「でね。私があなたに一番上げたかったものなの」
ますますわからない。
「・・・あのね」
フランソワーズはジョーの眉間の皺を指先でなぞり、微笑んだ。
「あなたの家族、よ」