「雨乞い」
梅雨の時期に機嫌が悪くなるのは僕の専売特許だ。 なあ、これって違うよな。 まったくもって不本意だ。 しかも、機嫌が悪いのは僕とは真逆の理由なのだから。
「もうっ。どうして雨が降らないのよっ」 ああ、今日も晴天だ。 「今は梅雨なんでしょ。雨がたくさん降る時期なんでしょ。なのに、どうして毎日まいにち晴れるのよっ」 するとフランソワーズは横目で僕を見た。 「ジョーのせいよ」 責任とりなさいよと無茶を言う。 「あのさあ。僕にそんな力があるわけないだろ」 あるとしたらイワンだけど、彼は無罪だ。一週間前から眠っている。 「ああん、もう。どうして雨が降らないのよっ」 知るもんか。 「二週間前まではバカみたいに降っていたのに。ね、ジョー、まだ梅雨明けしてないわよね」 だから、知らないって。 フランソワーズは青い空を恨めしそうに見ると呪詛を吐いた。
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「見て見て、ジョー」 じゃあーんという効果音つきで目の前に差し出されたのは白い靴だった。 「可愛いでしょう」 …僕にコメントを求めるか? 「これは雨の日に履くショートブーツなのよ」 はあ。靴にも雨の日用とかあるのか。 「ずっと、足元が濡れるの気になってたのよ。可愛いのがみつかってよかったわ」
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あれから10日。
まったくもって不本意だ。 「ジョー、気持ちがこもってないわ」 ああもう。 「雨が降ったらどこに行くつもりなんだい?」 レインシューズ履いて。 「あら、」 フランソワーズは目を丸くするとふふっと笑った。 「ジョーの行きたいところに決まってるでしょ」 いや、僕は雨が嫌いだって何度も… 「…どこでもいいのよ」 あなたと一緒なら。とフランソワーズが妖しく笑う。 きっと、雨が降ったらわかるのだろう。彼女の言った意味が。 …仕方ない。 「雨乞いでもするか」 なんでだよ。
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